【Vt.短編】私のカレは可愛いのです。
「ねーねー佐藤さんっ。今日何の日か知ってるー?」
「ええ。知ってます。バレンタインディーですね。」
「知ってるなら話は早いっ!ギブミーチョコレートォーッ!!」
ギブギブッ!とウルサイ長田クンに、私は苦笑して肩を竦める。
「この不況時代、会社での義理チョコ廃止はもはやブームですよ、長田さん。」
「いいんだよっ、義理でもなんでも!女子からもらえる事が男のステータス!明日の活力!」
「ザンネンでした。生憎と私の鞄をひっくり返してもロッカーを漁ってもチョコレートの欠片も出てこないですよ。」
「しょ―――――――っく!!」
大袈裟に頭を抱える長田クン。
そこで長田クンが「あれ?」と首を傾げた。
「カチョー?どーしたんスか、固まっちゃって。その書類になんか不備でも?」
「い……いや。」
不思議顔の長田クンにそれだけ応えて緒方さんはよろっと身を翻した。
見るからに萎れているその背中に堪えようもなく笑いがこみ上げて、
いけないと思いつつも小さく肩が震えた。
ガタガタッ★
オフィスに激しい音が響いたのは、私が帰り仕度を済ませた頃。
部長に打ち合わせの報告を終え、自分のデスクに戻ってきた緒方さんが、椅子ごと後ろの壁に激突して、固まっていた。
そんな緒方さんを余所に
「お疲れ様でしたぁ」
私はニコリと笑顔で挨拶してオフィスを出た。