【Vt.短編】私のカレは可愛いのです。
エレベーターのドアが開き、中に踏み込む。
ドアが閉まる寸前
「っ……弓美!」
私の名前を呼んで男が一人飛び込んできた。
エレベーター内に上がった息遣いだけが響く。
「会社で名前呼びなんて、随分慌ててらっしゃるじゃないですか、……緒方さん?」
からかうように言えば、ようやく息を整えたらしい緒方さんが顔を上げた。
くしゃっと前髪を掻き上げた緒方さんはなんとも複雑な顔をして。
「君は時々大胆だな。」
呆れと戸惑いと…
どこか嬉しさも含んで…
してやられた事に拗ねているようでもあり……
そんな顔に思わず小さく笑声が零れた。
彼が今手にしている箱はチョコレート。
表面にはベタに『I LOVE YOU』のデコレーション。
その文字が見えるようにご丁寧に蓋まで開けて、堂々と緒方さんのデスクの書類の一番上に置いておいた。
可愛らしく『私の気持ち、受け取って下さいね♪弓美』のメッセージ付き。
生憎ですが
私の気持ちは“仕事”にも“他のチョコ”にも埋もれさせる気はナイんです。