【続】三十路で初恋、仕切り直します。
1 --- ままならない現状

(1)ままならない現状


「やっぱり挙式はしないで、披露宴だけにしちゃう?カジュアルな会費制の立食パーティーとか。それだとわりと準備期間短く手軽に開けるみたいだよ?」


背後に座っている法資に話しかけながら、結婚情報誌とパソコンの画面とを見比べる。

どの地域で挙式するのか、無数にある式場の中でどこを選ぶのか、ホテルでフォーマルな形式に拘るのか、それともレストランなどでカジュアルなものにするのか。神前式なのか人前式なのか、そもそも式と披露宴どちらも挙げるのかどちらか一方だけにするのか。

情報誌の分厚さや検索して出てくるサイトの数が、結婚式にまつわる選択肢がいかに多いものなのか物語っていた。調べれば調べるほどに選択肢が増えていき、数ヶ月前からはじめた式場選びはなかなか思うように進んでいなかった。


「ホテルでの挙式も憧れるけど、わたしも法資も何度も打ち合わせに通えないし、無理があるよね。土日のいい日取りはもうどこも半年先まで予約埋まってるみたいだし……」


結婚式のことを考えると悩ましいことばかりだった。



泰菜と法資ふたりの地元である桜井町にいる家族や、ほとんどが首都圏内に住んでいる友人たちを招くなら、都内で挙げるのがいちばん都合がいいと思う。

けれど今法資はシンガポールに、泰菜もまだ静岡に暮らしているため、そうそう何度も都内まで結婚式場を探しに行くことが出来ない。それに仮に場所を押さえたら押さえたで、ドレスや装飾を選んだり、引き出物やお料理を選んだりと、決めなければならないことはたくさんあるから何度も打ち合わせに通わなければならなくなる。仕事を持つ身としてはなかなか難しいことだった。


「もういっそ日本で挙げるの諦めて、親族だけ呼んで海外挙式とかにしちゃう?」


それはそれでいい案だと思う。身内だけなら大勢を招待するより予定が組みやすいし、手配会社や挙式のコーディネイターさえ決めてしまえば早く式を挙げることも出来るかもしれない。身内だけを呼ぶごく少人数の式でも、新婚旅行も兼ねた海外ウェディングならいい思い出になるだろうとも思う。


-------定番のハワイあたりで挙式っていうのもいいかもしれない。


そう思いかけて、昨年生まれたばかりの法資の甥っ子のことを思い出した。

挙式するなら是非とも招待したいけれど、あんなにちいさな赤ちゃんを長時間航空機に乗せて海外まで呼びつけるなんて、乳児の英人にとっても母親の晶にとっても酷なことだろう。


「だめだ。海外ってのはとりあえずなしかなぁ。英人ちゃんたちに無理させたくないし」


なかなか丁度好い落としどころを見つけられず、思わず頭を抱え込む。


「ほんとにどうしよ。……なんかさ、もういっそのこと、記念写真だけにして式なんて挙げるのやめちゃう?」


ねえ法資はどうしたらいいと思う?と尋ねながら、ようやくパソコンや雑誌から目を離して振り返ると、背後でテレビを見ていたはずの法資の顔が驚くほど近くにあった。吐息がかかるほどの距離に詰めてきた法資は、二重のはっきりとした目にいたずらっぽい笑みを浮かべてすこし強引に乾いた唇を重ねてくる。




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