【続】三十路で初恋、仕切り直します。
優衣たちはそのスターライトホテルで挙式することも日取りももう本予約を入れて決めてあるものの、式場の担当者からブライダルフェアに参加することを薦められたのだという。
「ブライダルフェアってほんとは式場選びしてるカップルをメインターゲットにした催しなんだけどね。でも模擬挙式でチャペルの雰囲気みられたり、デザートビュッフェの試食出来たり、いろんな業者さんが来て披露宴の演出に使うアイテム見せてもらえたりしたから、これから式の話を詰めていくうえでかなり具体的に挙式と披露宴のイメージが出来てよかったよ」
なによりフェアでいちばん良かったのは、ウェディングドレスを自由に試着させてもらえたことだという。
「わあ。優衣ちゃん素敵」
優衣が見せてくれたのは携帯の写メだ。たっぷりとしたレースのロングトレーンが美しい、プリンセスラインのゴージャスな純白のドレスを着ている優衣が映っている。
たぶん撮影したのは藤なのだろう、画面の中の優衣はしあわせそうにとても自然な笑顔を浮かべている。
「すごく綺麗だよ、優衣ちゃんの花嫁さん姿」
「へへ、ありがと。フェアのために特別に衣装室に貸し出されたドレスみたいでね。記念に着られてよかったわ」
「え?これお式のとき着ないの?」
「本番じゃ、こんな高いドレス借りられないわよ」
そういいつつも、優衣も未練ありげな目で携帯の画像を見つめる。
「鉄平は似合うからこれにすればって言ってくれたんだけど、この総シルクのドレス、衣装室でも一番高級で借りるだけで50万以上もするのよ?人生に一度のこととはいえ、さすがに贅沢すぎるかなって思って。他にもお色直しのドレスとかも着るし、前撮りで和装も着る予定だからね」
……借りるだけで50万か。
結婚式にまつわる相場を知らないだけに、その価格に衝撃を受けていた。それを高いと感じるか安いと感じるかは、結婚式に何を望むかによっても変わるのだろう。倹しく身の丈にあった挙式をするのもいいけれど、あとでやり直しの利かない人生一度のことだと思えば、後悔のないように思いっきり自分の望みのままの式や衣装を選ぶのもありかもしれないとも思う。
親友の美玲も、結婚式は自分が世界でいちばんきれいだと思える人生一度きりの日だから「借金してでも満足のいくように挙げるべき」と言っていた。自分の身に置き換えてあれこれ考えていると、「泰菜も行ったりしてるの?」と優衣に訊かれる。
「え?」
「だからブライダルフェア。行くだけで休日潰れちゃうけど、タダでウェディングドレス着せてもらえてプロのカメラマンに記念写真も撮ってもらえちゃうし、すごい楽しいよね。私もスターライトの他にも3つくらいフェアに行っちゃったよ」
「……3つも?」
驚く泰菜に優衣は「このくらい普通よ?」と言ってくる。
「ホテルによって会場も扱ってる衣装もグレードにだいぶ差があるのが分かるしね。行く前は面倒そうにしてるくせに、なんだかんだ鉄平も楽しそうに写真撮ってくれるしさ。なんていうかただ式場の見学に行くより、ブライダルフェアに行く方が、なんかお互い気持ちが盛り上がるのよね」
優衣と藤は今日もそうして2人でブライダルの相談をしながら楽しんできたのだろう。「そうなんだ」と相槌を打ちつつ、優衣の話を聞けば聞くほど羨ましく思えてくる。法資が恋人でいてくれて、彼にプロポーズまでされていて、それだけでも自分は十分すぎるくらいしあわせなはずなのに……。
「ねえ。私のことはこれくらいにしてさ。『ハピマリ』読んでるくらいだし、泰菜ももうすぐ結婚なんでしょ?」
唐突に優衣が尋ねてきたから、ラテを飲んでいた泰菜はむせそうになってしまう。
「ちょっと。大丈夫、泰菜ってば」
「……っ、え、あの、えっと結婚って……?」
「隠す気?いいから話ちゃいなさいよ!」
優衣が笑いながら問い詰めてくる。