【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「……泰菜がそんなに可愛くなるわけだ」


泰菜の携帯の画面を見て、優衣がしみじみと呟く。


「こんなイケメン捕まえたんだもん。そりゃきれいにもなるわけよ」


優衣が見ているのは泰菜の携帯に保存された写メで、法資が撮影当時まだ生まれたばかりの新生児だった甥っ子を抱かせてもらっているときの姿だ。

隠し撮りのようにこっそり撮ったもので視線は正面を向いていないけれど、腕の中の赤ん坊に注がれる法資のやさしいまなざしが見て取れて、泰菜もいまだに見るたびに胸がきゅっとさせられるお気に入りの一枚だった。


「ほんと思わず拝みたくなるくらいのすごいイケメンね。ちょっといやらしい言い方だけど、関谷先輩が自慢しまくってた元モデルだか俳優さんだかの旦那さんより、正直泰菜の彼氏の方がよっぽどかっこいいじゃない」


そんなことないよと言いつつも、内心ちょっと誇らしいような照れるような気持ちだった。

誰にも自慢なんてしたことはないけれど、心の内では法資のことは自慢の彼氏だと思っている。もちろん外見だけでなく、実は努力家でやさしい内面も含めて。



「っていうか、どこでこんないい男見つけて、どうやって落としてきたのよ?」


優衣に訊かれて、法資が近所に住んでいた幼馴染であること、昨年再会して今は婚約中であること、今法資が一時帰国中であることなどをかいつまんで話す。優衣は携帯の写メを見詰めたまま相槌を打ち、何度も「うらやましい」と呟く。


「もう入籍済みで挙式も間近な優衣ちゃんの方がよっぽどうらやましいってば」
「でも彼の方からすぐプロポーズしてくれたんでしょ?わたしなんて、付き合うときも入籍するときもいちおう鉄平の方から言い出してくれたけど……そう仕向けるまでに結構苦労したのよ?」




元カノとの失恋で傷心だった藤を追い詰めないように、優衣は自分から好きだと告げたり結婚したいなどと言わず、藤がその気になるまでひたすら受身の姿勢でいたという。

デートの日にはあえてどこにも行かずに家に招いて手料理を振舞って藤にくつろいでもらったり、中日ドラゴンズファンの藤のためにチケットを取ってみたり、有名な選手の名前だけでも覚えておこうとドラゴンズの月刊誌を買って予習をしたりと、藤が一緒にいたいと思う相手になるためにいろいろ陰で努力をしていた。

その甲斐あって、藤から「優衣といると癒される」「話が尽きなくて楽しい」「ずっと一緒にいたい」と言われるようになり、ある程度は優衣の術中ではあったものの、藤の方から望んで嫁に貰いたいと思うような存在になれたという。


ちなみに今ではすっかり開幕戦の先発選手やスタメンを予想し合って夫婦で激論を交わすくらいの熱烈なドラゴンズファンになったらしい。





< 11 / 167 >

この作品をシェア

pagetop