【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「なのに『男に捨てられた』って声も上げずに涙こぼしてるおまえが急に知らない女みたいに見えて驚いた。……おまえのことなんてもうずっと忘れてて過去のことだって思ってたのに、泣き顔ひとつで動揺させられて無性に腹が立った。こいつまだ人のこと振り回す気かって」
「………だから腹いせに酔い潰したってこと?」

「そういうつもりだったけど。……ごちゃごちゃ言い訳しようと、結局俺はおまえを抱きたかっただけなんだろうな」


一度抱けば気が済むだろうと思っていた、と言う。「余計に執着することになるなんて思わなかったのに結局この様だ」と法資は皮肉に唇を歪める。


「一度だけって……やっぱ法資、わたしのことヤリ捨てるつもり満々だったんだ」


どんな誤魔化しをするでもなく、法資は「抱くまではな」と認める。それから泰菜からのいかなる非難にも甘んじるという顔で「正直泰菜のことが憎らしかった」と言う。


「相変わらず俺のことなんて眼中にないって態度のおまえのことがそれでも気になってしょうがない自分にうんざりしてた。一度ヤっておまえがただの女に成り下がればいい加減おまえに拘る気持ちも醒めるだろうって、あのときは考えてた。………軽蔑するか?」


真面目な顔して訊いてくる法資を見て、法資の方こそバカじゃないのかと思う。


『おまえが結婚しようとしている男はそういう自分勝手なことを考えてた男なのだ』とわざわざ突きつけたりしなくても、自分のことなんて簡単に手のひらで転がせておけるくせに、と思う。




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