【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「言わなきゃいいのに。……そんなの、黙ってればわたし全然気付かないままだったんだから」
でも法資が言わずにはいられなかった言葉に、ずるいことを考えていたどうしようもない自分を、それでも愛してほしいという彼の切望や甘えが見え隠れする。
泰菜から非難されるであろうことを暴露してまで、『本当にあの日会えてよかったと思えるのか』と、遠まわしに訊いてくる法資の不器用さが笑いたくなるくらいかわいらしく思えてしまう。
「……何笑ってるんだよ」
「うん、とりあえずわたし、脱ぎ癖があったわけじゃなかったみたいで安心したの。実はあれから田子さんたちと飲むときは同じことやっちゃわないかヒヤヒヤしてたから」
責めるどころか笑みを見せる泰菜に、法資は居心地が悪そうに眉を顰める。
「おまえほんと危なっかしいな。もっと俺に文句とかないのかよ」
告白通り、法資は一線を越えようとしたときはいい加減な気持ちで自分に手を出したのかもしれない。
けれど法資が一度懐に入れた相手にはひどく深く情をかけると知っている。だから「ううん、なんかもういいやって思って」と本心から答えると、泰菜の言葉の真意を探るように法資にしては気弱な顔をする。
「簡単に言うなよ。酔い潰されて犯されたんだぞ、おまえ」
「……そういう露悪的な言い方やめてよね」
記憶がおぼろではっきりしないから、もしかして合意じゃなかったのかもしれないけど、あの日朝目覚めたときはけだるいのにすごく気持ちのいい倦怠感があって、そのことにちょっとしあわせすら感じていた。
だから乱暴にはされず、大事に大事には扱ってもらえたのだろうということだけは分かっていた。
「もうさ、結果オーライっていうか。今ちゃんと大事にしてもらえてるなぁって思うから、そのあたりのことはもうどうでもいいかなって」
本心からの言葉に、法資は目尻に薄く皺を寄せて苦笑する。
「……ほんとおまえ、変なとこで大雑把っていうか豪胆っていうか」
「いけない?」
「や。惚れる。ってか参る」
それから泰菜を引き寄せて耳元で「ごめん」と謝ってくる。