【続】三十路で初恋、仕切り直します。

いつも不敵で強気な法資が素直に頭を垂れる姿は新鮮だった。それだけに法資が今までずっとあの夜のことを後ろめたく思い、胸の中でわだかまらせていたのだということが分かる。

「法資、後悔してたんだ?」
「……あのとき、ちゃんと正攻法で口説かなかったことをな」

まるであのときはそうする勇気がなかったとでも言うように、法資は力なく微笑む。

いつも強引で自信満々のくせに、あの夜のことをいつまでも気にしている気弱な面があるだなんて思ってもいなかった。法資にそう言うと、「本気ってそういうもんだろ」とさらりと返される。それから法資は自分のことを冷静じゃいられなくするのも弱気にさせるのも泰菜だけだと言う。



法資はセックスからはじまってしまった関係を、泰菜が本心から受け入れてくれているのか気掛かりだったらしい。酔った泰菜をなしくずしに抱いてしまったという疚しさがあるゆえ、泰菜が全幅の信頼と情愛を自分に寄せてくる度に罪悪感が沸いたのだと。


再び法資が謝ってきそうな雰囲気を感じて、泰菜はそれを遮って法資の頭を子供にそうするように撫でてやる。


「だからさ。そんな気にしなくてももういいんだってば」


ちょっと傲岸なくらい男らしいひとだと思っていた法資が自分の言動を悔いて許しを乞うてる姿は、あまりかっこいい姿じゃないのかもしれない。でも法資のことがますますいとおしく思えてくる。

有能でカッコいいだけじゃない生身の法資に触れて、彼が人としてまだ未熟な部分や欠点を晒して本音で付き合えるのも、それをいちばん傍で受け入れてあげられるのも自分だけなのだということがうれしい。それが法資から妻に選んでもらえた自分の特権なのだということが誇らしい。法資を責める気持ちよりその気持ちの方が強かった。


「これからも大事にしてくれるならぜんぶ許してあげる」


彼のすべてを受け入れると笑顔を見せる泰菜に、法資はしばらくの間言葉もないとでもいうように押し黙る。それからきつく泰菜を抱き締めるとあえぐように呟いた。


「当たり前だろ。……手放してたまるかよ」


熱く囁いた唇はすぐに泰菜の肩口に押し当てられ、そこをきつく吸う。「痛いよ」と甘く抗議してみても、法資はこれで泰菜は完全に自分のものだと言わんばかりに何度も肩口や首に吸い付いてくる。




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