【続】三十路で初恋、仕切り直します。
13 --- しあわせの隙間を埋めるように
(13)しあわせの隙間を埋めるように
『どうせなら東京と静岡で、会場の雰囲気全然違うようにした方が面白いんじゃないか?』
そう言っていた法資のことを思い出しながら、目の前に並べられたテーブルクロスの色見本や装花の参考写真を眺めていた。
ふたりで打ち合わせに行った都内にあるフレンチレストラン『Louison(ルイゾン)』では、ホワイトとロイヤルブルーを基調にしたコーディネイトを一目見て法資も泰菜も気に入り、装花もそれに合う白とグリーンで纏めようと早々に決まった。
そのとき法資に静岡の会場の方はどういうイメージカラーがいいと思うか訊いてみたら、彼は『泰菜の好きにすればいい』と前置きした後で笑いながら答えた。
『けどおまえ、ピンク好きだろ?向こうで色見本見てみなきゃなんともいえないけど、真っ白なドレスと相性の良さそうな色だし、俺ならピンク系がいいんじゃないかって思うな』
ピンクがだいすきだったのは今ではなくもっとずっと小さな頃のことだけど、法資がいまだに覚えていてくれたことがなんとなく嬉しくて、そのときは『ピンクも華やかでいいかもね』なんて返していた。
「泰菜さん。……泰菜さん……?」
はっとして顔を上げると、向かいに座っているひとのすこしだけ気遣わしげな顔が目に入る。泰菜が物思いに耽っている間、どうやら何度目も呼びかけてくれていたらしい。
「すみません」と謝ると、まだ若手の部類のウェディングプランナーの西はシャープな顔を笑み崩し、「いいえ。よかったらこれどうぞ」と泰菜に皿をすすめてくる。
今泰菜は静岡にあるレストラン『睡蓮』で打ち合わせをしているところで、さっぱりとしたショートカットにはきはき喋る姿が印象的な彼女は、静岡で開く披露宴パーティーの担当プランナーだった。