【続】三十路で初恋、仕切り直します。
プライベートだけでなく仕事も相変わらずの人手不足の所為で現場のあちこちに回されるくらい忙しく、法資にも『少し痩せたんじゃないか』と心配された。そのときは『ドレスがきれいに着られる様にブライダルダイエット中なの』と誤魔化していたけれど、最近は口の悪い田子にまで体調を心配されるほど食欲が落ちていた。
法資に心配を掛けないためにも、しっかりと栄養を取ってきちんとメイクも落として見かけだけでも健康そうにしていなければいけないと思うのに、今はそのすべてが面倒でちょっと休むだけだと思っているうちに意識が心地よくまどろんできてしまった。
そのまま浅い眠りにつき、次に泰菜の意識を覚醒へと揺り起こしたのは遠くから聞こえる電子音だった。
ピピっと繰り返す規則正しいその音に重たい瞼をどうにか持ち上げると、卓袱台に起動したまま置いてあったパソコンからスカイプの着信を知らせるコール音が鳴っていた。
寝起きの化粧が崩れたままの顔で、しかもさびしさのあまり法資の置いていった部屋着のシャツを服の上から羽織っているというちょっとはずかしい姿だったのにそんなことにまで気が回らず、慌てて『応答』のボタンをクリックすると、モニターに恋しかったそのひとの顔が映り込んだ。
『よう』
泰菜を見て苦笑した法資は、仕事から戻ったばかりのようで今日はワイシャツにネクタイの通勤スタイルだった。すこしだけ緩められた首元と砕けた表情に、仕事から解放されリラックスした雰囲気が表れていた。
忙しかったのは法資も同じで、久々の通話だった。久々に画面越しに顔を合わせたことでかえってさびしい気持ちが刺激されて涙ぐみそうになると、それを察したようなタイミングで法資が揶揄するようなことを言ってくる。
『おまえ、今日はすごい無防備な顔してるな』
あわてて顔を伏せると、法資はなおも茶化すように言い募る。
『いちいち隠すなっての。おまえがヨダレ垂らしてるとこ見ようが派手にテーブルの痕顔に付けてるとこ見ようがその程度じゃ冷めたりしねぇよ』