【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「……だらしのない姿ですみませんね。いちいち意地悪く指摘しないでよ」
文句を言いながら羽織っていたシャツの袖口でぐいっと口元を拭おうとして、でもストライプ柄のそれが法資の持ち物だということに気付いて顔が熱くなる。法資も泰菜が羽織っているサイズオーバーのそれが自分のものだと一目見てわかったはずだ。
法資の名残を恋しく思いながら転寝してしまったことは、察しのいい法資には気付かれてしまっただろう。恥ずかしさのあまり再び顔を上げられなくなると、何もかも見通した様子で法資が『おまえも可愛いところあるよな』などと感慨深げに言ってくる。
「……からかわないでっ」
『本当に可愛いって思ってるっての。寝起きのむくみまくったひでぇ顔見せられても軽くそれ帳消しに出来るくらい可愛いって』
「もう……!」
本当は恥ずかしかったからだけど、素直にはなれずに怒ったふりをしてシャツを脱ぎ捨てると、法資は『遠慮するな。そんなに俺が恋しいなら好きなだけそれ着てろよ』などとなおも冷やかしてくる。
モニターの中の法資はとても楽しそうな顔で笑っていた。子供のとき泰菜を馬鹿にしたり悪戯してきたときと同じ、とてもしあわせそうな満面の笑顔だ。
人の気も知らないで、とすこし恨めしく思いながらもウェブカメラの前で正座をして姿勢を正すとあらたまった泰菜の態度に何かを察したのか、法資が表情を引き締めた。
『泰菜。……悪い、ふざけすぎた。話があるならちゃんと聞く』
わずかに緊張したその顔を見て慌てて手を振る。
「誤解しないで、そんな深刻な話じゃないから。一応報告と言うか」
いくらか言葉に迷った後「違ったの」と告げると、画面の中の法資が目を眇めた。
『違ったって、つまり』
「だからその。…………………生理、きました」
出来るだけ事務的に告げる。けれどどうにも恥ずかしさがあって俯いていると、スピーカーの奥から唸るような『……そうか』の声が聞こえた。その声だけでも法資が『もしも』の可能性を真剣に受け止めてくれていたことが分かる。
「……ごめんね、法資。余計な心配かけちゃって」