【続】三十路で初恋、仕切り直します。
今ではあれが不器用な父の本気の心配だったのだと分かる。けれど中学生のときは毎日のように不機嫌な顔をしていた秀作に、息が詰まるような思いをしていた。
13歳の当時は携帯電話なんて持っていなくて、学校から帰宅するとすぐに家の電話から会社にいる父の携帯に『帰宅した』と連絡する約束になっていた。
けれど体育祭の季節に実行委員になり、学校で居残り作業をするために帰宅もその後の電話報告をする時間も遅れがちになると、秀作にかなり厳しく怒られるようになった。
『誰か別の生徒に代ってもらえないのか』
『もうすこし早く帰宅させてもらえるように先生に頼めないのか』
『いくら委員の仕事だからって、こんな遅い時間まで生徒を拘束するなんておかしいんじゃないのか』
『本当に委員会の仕事なのか?どこかで遊んでいるんじゃないのか』
父の心配も理解できることだけど、他の生徒たちがちゃんと実行委員の仕事をこなす中、自分だけが『早く下校したい』などとわがままじみたことを言うなんて出来なかった。
それに遊び歩いているわけではなく真面目に作業をしているのに『帰宅が遅い』と怒られてばかりで、父の態度は理不尽だと不満が募った。
あるときその苛々が臨海になり、ついにその日は帰宅しても父に連絡をしなかった。反抗らしい反抗は、これが初めてのことだった。
時刻が6時半を過ぎたあたりから何度も家の電話が鳴ったけれど、父からの着信だと分かっていたから意地でも出なかった。どうしてもその日だけは父に逆らってしまいたい、そんな荒々しい気持ちを押さえられなかった。
鳴り止まない電話を聞きながら居間で宿題を片付けているうちに転寝して。それからいくらもたたないうちに目が覚めたのは、玄関から尋常じゃない荒々しさでインターホンが連打される音が聞こえてきたからだ。
血相を変えた法資だった。