【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「待って、泰菜ちゃん。私出るから」
目に美しい分動きにくい、長いトレーンのドレスを着ている泰菜を気遣って晶が代りに対応すると、わずかに開いたドアの隙間から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あれ、晶姉……?」
「何よ法くん、野生のゴリラにでも遭遇したような顔して。そんな嫌そうな顔することないでしょ、失礼ね」
「……ってか花嫁の部屋なのになんで真っ先にあんたが出てくるんだよ」
「あらあらはじめに出てきたのがこの顔ですみませんねぇ。あなたの大事な大事なお嫁さんだったらちゃんとそこでスタンバッてるわよ?」
晶に促され、待ちに待っていた法資が顔を覗かせる。ドレス姿で控える泰菜を見た途端、何かを言いかけようとしていた法資が言葉を詰まらせた。
ピンクをメインカラーにした華やかで可愛らしいコーディネイトの静岡の披露宴と、ロイヤルブルーを基調にしたスタイリッシュで洗練されたコーディネイトの東京の披露宴、ふたつの会場の雰囲気を全く異なるものにしたように、泰菜が着るドレスも先週と今日とで全く違うタイプのものを選んだ。
先週の披露宴ではふわりとしたレースが甘いニュアンスのAラインのドレスを選んで可愛らしい雰囲気のスタイルにして、今日は腰から太腿にかけての女らしいラインがぴったりと強調され、膝下で花が咲くように裾が広がるエレガントなマーメイドラインのドレスを選んだ。
背が低いからこのラインのドレスの中から似合うものを選ぶのは苦労したし、よりドレスのラインがきれいに見えるように履き慣れない高いヒールも着用しなければならなかった。けれど普段は「童顔」と言われてばかりの自分の、年相応の『オトナな女』の雰囲気を出してみたいと、すこし背伸びをして「挑戦」の意を込めて選んだ。
ドレスを試着したときの写真を見てもらった際、友人の優衣は「Aラインのかわいいドレスはいかにも泰菜っぽくてすごく似合ってるけど、マーメイドの方は意外っていうかすごい新鮮」と言っていた。
はたして法資の反応はどうなのか。