【続】三十路で初恋、仕切り直します。

先週の披露宴では、一緒に飲みに行った田子やG班三人衆以外知り合いがいないという気安さのためか、法資は開き直ったように笑顔の大盤振る舞いをしていた。

泰菜をエスコートする仕草は堂々としながらも恭しく、友人たちから羨ましがられている泰菜をひたすら丁重にお姫様扱いする役に徹することを、法資は完全に割り切って楽しんでいた。

列席者やカメラマンに求められるままに蕩けるような笑顔を浮かべ、向けられたマイクの前で臆せずに甘い言葉を紡ぎ、果ては列席者の無茶ぶりのようなリクエストに応えてお姫様抱っこなるものまでやらかした。


その態度は「王子様」などと揶揄されるほどだった。


30過ぎの男が王子もなにもなかろうに、結婚式という「非日常」の場ではそういう態度が「あり」と受容されてしまう一種独特な熱っぽい雰囲気があるのだ。

しかも新郎の法資はなまじ絵になるくらい顔やスタイルがよく、気後れすることのない堂々とした紳士的な態度が見事に場の雰囲気にも合って様になっていたため、泰菜の大学時代の友人たちはこぞって「理想の新郎」を見る目になってうっとりしていた。


けれど法資ほど開き直って「しあわせな花嫁」を演じることも、ロマンチック雰囲気に浸りきることもできない泰菜は、しあわせだけどただただ気恥ずかしく、いっそいたたまれなくて。

いち早く現像してもらった写真の中の自分はひたすら照れまくっていたりそれを堪えようとしていたりと、固い表情を浮かべているものばかりになってしまった。




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