【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「おまえさ、今日も緊張してるのか?」
身支度を終えた法資が再び訪ねてくると、開口一番に笑いながら訊いてきた。
静岡の披露宴パーティでは花嫁にも負けないくらい眩く、泰菜と2人で並ぶと爽やかでやさしい印象になる白のタキシードだったけれど、今日は一転、スタイリッシュな黒のタキシードに身を包んでいた。
いずれも泰菜が着るドレスや会場の雰囲気に合わせて選んだものだったけれど、今着ている細身のタキシードは長身で手足の長い法資にとてもよく似合い、洗練された姿からは大人の色香のようなものまで感じられて、泰菜は自分の夫相手にどきまぎとしてしまう。
「……人並みに緊張くらいしますよ」
見惚れていましたなんて言うことができずに言うと、法資は急に耳元に唇を寄せてきて「ま、今日が終わればこれから毎晩一緒だからな。いつでも『ご褒美』やれるからそれを励みに今日一日頑張れよ」などとにやにやしながら囁いてくる。
小声で話したから聞こえないだろうけど、控え室の隅にはカメラマンがいるのに。何より結婚式という人生で最上レベルの神聖な儀式に臨む前なのにすけべなことを言い出すなんて。思わず脱力しそうになる。
せっかく泰菜がときめいても、ときどき法資は自分の言動でその雰囲気をぶち壊してしまうときがある。ときに泰菜の前では素になりすぎて恰好つけることが出来なくなるところが、残念なようないとおしいような。
まだ先月入籍したばかりの新婚だから、今は残念なほうにやや大きく天秤が傾いてしまう。