【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「ちゃんと元気になったらね。……いっぱいしよ」


照れる素振りも見せずに、やわらかい表情のまま言ってくる。まるで甘えてくる子供をやさしく諭すような顔だ。

いつもなら直球で誘うと照れたり恥ずかしがったりするくせに。今日はしっとりと色香を含んだやさしい顔で笑ってくれる。




---------こんな泰菜を見られるなら、風邪を引くのも悪くないな。




そう思いつつも、妻の思いがけない反応に自分の方がどぎまぎさせられたのがなんだか悔しくて。着替えを手伝ってくれている泰菜を無理やりベッドに引き寄せた。

掛け布団を足で乱暴に払い落とし、小さく悲鳴を上げた泰菜を平らになったベッドの上に組み敷き、服越しの胸を弄りながらすかさずキスの雨を降らせていく。

ちいさめだけどふっくらした唇に、甘い匂いのする首筋に、それから泰菜のウィークポイントである鎖骨に。キスして、舌先で擽って、甘く歯を立てていく。


シーツの上に縫い止められた泰菜の体は、すぐに骨がとろけたように弛緩していった。悶えるようなそのさまが色っぽい。


「……法資…っ……安静にしてなさいって言われたでしょ。……こういうことして、ひどくなったらどうするの……?」


唇を離した瞬間、息を乱しながら泰菜が責めてくる。怒って睨んでくるその目には、自分の体調を本気で心配している色が見える。



愛おしかった。

目の前にいる女に、どうしようもなく胸が甘く痺れる。



「………おまえ、可愛いな」


自然に湧き上がってくる気持ちを隠すことが出来ずにそう告げると。

「もう、法資……!そんな適当な言葉でわたしをその気にさせようとなんてしないで」

途端に泰菜はうるませていた双眸を険しくさせた。


「……エッチがしたくなったときだけ無闇に褒めてくるとか、そういう安い手を使うのはやめてよね」
「本当におまえのこと可愛いって思ってる。適当じゃない。……泰菜が可愛い」


冗談の含みを持たせずにはっきり告げると、途端に泰菜はうろたえたように視線をさまよわせる。泰菜の思いがけない態度に翻弄されるのも心が躍ることだけど、やはりまだしばらくは自分だけが翻弄する側でありたい。


「………おまえ最高だよ」


そうささやいて、ひどく戸惑った顔で照れる泰菜の体を弄っていった。





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