【続】三十路で初恋、仕切り直します。
法資に『こんなとこで何言ってんのよ馬鹿』って笑い飛ばせよ自分、と冷静な自分がつっこみを入れてくる。
そういうカラッとした冗談の雰囲気に持ち込めよ、と。そう思うのに、視線を感じて思わず隣に座る人を見上げてしまうと、法資から情の篭ったあたたかなまなざしを向けられてしまう。
田子たちの前なのだからどうにか無難な対応をしようと画策しようにも、その視線ひとつで心がぐずぐずと甘くとろかされてしまう。
「あ、えと」
気が付くと、法資を見たまま無意識に「その、ありがとうゴザイマス」と片言のように小声で告げていた。呟くようなその言葉に反応して、法資は見ただけでくらくら酩酊してしまいそうになる笑顔をにっこりと返してくる。
すでに真っ赤になっているであろう両耳が、もげてしまいそうなくらいに熱くなる。もう勘弁してください、と心の中で悲鳴をあげた。
これ以上法資がなにかを言ったりしたら、今にも爆発しそうなはずかしさと照れとそれにちょっとだけ入り混じったうれしさとで、ダレきった顔が取り返しのつかないことに陥りそうだった。
----------ああ、もしかして。これって今日一日放置したことに対する当てつけですか、法資さん……。
自分だけ余裕たっぷりの涼しい顔で、泰菜のことを羞恥地獄に放り込みにきたのだろうか。そういう罰ゲームなのだろうか。ありえないくらい甘い態度にそんな疑いを向ける。
それともこれからおじさんたちに冷やかされまくる泰菜を酒の肴にしてやろうという新手のいじわるなんだろうか。そんな疑心ばかりが脳裏をめぐる。でも。
----------それならそれでもういいや。
心の中で白旗を振っていた。