【続】三十路で初恋、仕切り直します。

今回法資は泰菜の静岡の家から比較的近い中部空港を利用して帰国した。


泰菜は数日前から家の掃除をして、前日には一緒に食べるためのおかずも作り置きしておいて、半休を貰った帰国当日は、これで家に帰ったらふたりでゆっくりできるなと思いながら空港まで車で迎えに行ったのだが。


その日は結局家に帰ってくることが出来なかった。


法資に強く乞われ、帰る道すがら通りかかったラブホテルに立ち寄ることになったのだ。呆れるような恥ずかしいような気持ちはあったものの、滅多に会えない恋人の我侭なのだからと思い聞き入れたけれど、思っていた以上に長い時間を掛けて求められた上、一晩空けた今朝、やっと家に帰ってこられたと思ったのも束の間、また法資におそわれてしまったのだ。


「……法資なんかといたらぜんぜん話が進まないじゃない……」


早く嫁に来いなどとスカイプで口説いてくるくせに、法資は言ってることとやってることがまるで矛盾していた。泰菜が出国する前に挙式するというなら、一刻も早く式場を押さえなきゃいけないのに。

折角法資の方から切り出してくれたことだから挙式する方向で考えてはいるけれど、本当は泰菜だって挙式するならさっさと済まして、早く法資のいるシンガポールに行きたいと思っているのだ。



もちろん好きな人に女として扱われることにはしあわせを感じる。すこしでも自分に夢中になってくれるのなら、出来るだけ法資に応えたいという女心もある。

まだ内心、学生時代と変わらずモテるだろう法資にだったらいつ飽きられ捨てられてもしょうがないとひそかに思いながら付き合っているから、自分が法資を独占し、その腕の中でたっぷりいじわるをされ、それと同じくらいたっぷり甘やかしてもらえることはしあわせなことだとも思う。



けれど、話し合いもままならない現状には焦りを感じていた。このまま結婚式のことをろくに決められないままでは、シンガポールへ行く前に時間だけがどんどん過ぎていってしまう。



「すこしくらい、相談に乗ってくれたっていいのに……」


そんな愚痴は忙しい中でも帰国してきてくれた法資には言えないことだった。

本音を言えば法資の方から式を挙げようと言ってくれたのだから、もっと一緒に結婚式のことを話し合いたかった。でも転寝する法資の寝顔を見ていると、口に出さないだけで法資は疲れているんだろうなということが察せられて、不満をぶつけることが出来なくなる。



---------でもこのまま一緒にいたら八つ当たりしちゃいそう。



軽くシャワーを浴びて、着替えが楽だからという理由だけで何も考えずにワンピースに袖を通すと、法資が眠りこけている居間に戻る。タオルケットをかけてやると、その傍らに散乱している結婚情報雑誌やノートパソコンやらをバッグに詰め込み、家を後にした。


でもどうせ法資はしばらく起きそうにもない。


行くあてがあるわけじゃなかったけれど荷物を持って車に乗り込み、とりあえず市街地に向けて発進した。




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