【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「いやあ、けどそこまで思われちゃ相原ちゃんも女冥利だねぇ」
田子や鈴木たちはてっきり法資の場違いなくらいの熱烈な言葉をいろいろからかってくると思ったのに、法資の真摯な言葉に何か感じ入っているようで、グラスを傾けながら「いいねぇ」と互いに言い合いだす。
「懐かしいねぇ、今じゃ飼い犬以下の扱いしてくるけどよ、うちの女房ともこういう時期があったんだよねぇ」
「俺ぁ久し振りにウチのキヨミちゃんに愛してるよ~って言いたくなってきちまったよ」
「よせやい、気色悪いって嫌がられるぞ」
からかうことすら出来ない法資の真剣さに、三羽烏のおじさんたちはすっかり当てられたのか、酔ったようにそれぞれどこかうっとりと熱っぽい顔で自分の奥さんの話をはじめる。
法資だったからこそ、そんな流れになったわけで。これがもし丹羽だったら、「勝手にノロケてんじゃねぇよ」「聞いてねぇわボケ」と辛辣に罵倒されているところだろうに。
「班長、こりゃろくでもねぇどころか大当たりだな」
「こんな男前で、相原ちゃんのことよく分かってるうえにベタ惚れなんだもんよ」
「これで安心して嫁に送り出せるわな」
「なんたって、桃木さんにとっちゃ相原ちゃんが運命のお相手ってわけなんだもんなあ?」
鈴木の言葉に、法資はただ爽やかな笑みで応える。
----------だめだ、このひとにはきっとわたし生涯かなわないんだろうな。
隣に座る法資の体温をかすかに感じながら、それでいいと心の中で頷く。法資の手のひらの中にずっといさせてもらえるなら、一生法資に転がされていじり倒されて、それでもいいと。