【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「泰菜。おまえ今日は俺の堪忍袋の耐久性でもテストするつもりだったのか?」
「あ、あのね、法資……」
下手な言い方をすれば、笑顔で皮肉を言う彼の怒りに余計な油を注ぐことになると分かっていた。何をどう詫びるか慎重に言葉を選んでいると、法資は高い上背を屈めて泰菜の顔を真正面から覗き込んできた。
「何だ?何かたのしい言い訳でも聞かせてくれるのか?」
壁際まで誘導されるように追い詰められていき、背中がぶつかった。息がかかるほどに近い場所に立っている法資は、いっそやさしげに見えるくらい落ち着いた目をしたまま、
「おまえさ。……今ここで俺に犯されても文句なんて言えないよな?」
まるっきり冗談とも思えない脅し文句を口にした。法資はそれだけのことを泰菜がしたのだと責めているのだ。「ごめん」の言葉が泰菜の口の中で震える。
「ごめん?そんなにあっさり謝ってくるくらいなんだから、おまえ俺がなんで腹を立ててるのか、当然理由は分かってるんだろな」
法資を怒らせた理由なんて、たくさん思い辺ることがありすぎてすぐには出てこない。
答えられずにぐずぐずしていると法資はふっと鼻先で笑ってくる。普段自分に見せてくれるどの顔とも違うその酷薄な笑みに背筋がぞくっとした。
異性を本気で怒らせたことなど今まで一度もなかったから、本気の怒りを抱える法資を怖い、と思うのに。
荒ぶる感情を無理やり押さえつけたかのような、その冷ややかなまなざしがあまりにも色気がありすぎて。場違いにも胸が騒いでしまったのだ。