【続】三十路で初恋、仕切り直します。
引き直したばかりのリップがぐちゃぐちゃに法資の唇を汚していた。
法資は煽るように両手で泰菜の腰をねっとり撫でまわすと、キスしていた唇を泰菜の鎖骨に置き、中央のくぼみから外側に向けて舐めていく。その途中で舌がブラ紐に当たって行く手を阻まれると、そこに唇を押し当てて強く吸い付いてきた。
「………だめ、痕が、」
止めようとすると鼻で笑われた。
「だから。おまえ俺にダメとか言える立場か?」
唇が当てられた部分の皮膚が、法資の歯と歯の間に引っ張られてしまうほどきつく吸い上げられる。熱を孕んだ唇はちりっと痛みを感じるほどの強さで泰菜の肌に刻印を施していく。
その合間にも泰菜の抵抗を受けることがない法資の自由な両手が、腰から撫でるように這い上がっていき谷間を指で擦りながらふっくらとふたつに盛り上がった場所に辿り付いた。そこを大きくて固い手のひらに乱暴に鷲掴みにされると、体が震えた。
法資の首の裏側で、持っていた化粧ポーチがすべり落ち、コンクリートの上に叩きつけられたそれが派手な音を立てる。
それでも泰菜のやわらかな部分をいたぶってくる法資の手は止らない。
駅前の大通りからは一本中手に入っているけれど、それでも往来する車の音や、繁華街のひとのざわめきは耳に入る。そんな場所で嫌なのに好きな男に服越しに刺激されて感じてしまいそうになっている自分が恥ずかしかった。
「……法資、……お願い………」
家に帰ったら何でもするから。だからもうここでは許してと、法資の耳に唇を寄せて懇願する。法資はこの状況を愉しんでいるわけではなく、苛立ちを押さえきれない様子で縋ってくる泰菜の首に噛み付いた。
「……っ…や………」
「泰菜。俺はな、仕事と恋愛とどっちが大事かって訊くような馬鹿は男でも女でも大嫌いなんだよ」
自分の中に燻る苛立ちを泰菜を苛むことで鎮めようとするかのように、法資はなお乱暴に泰菜の体をまさぐる。
「…………法…すけ…っ……」
「俺は。俺はおまえにそういうことを訊くつもりもないし、訊かれるのも御免だ。いっぱしの社会人ならそれがどれだけくだらない質問かって分かるはずだからな。けど。……けどな。おまえにとって俺は、どんだけ優先順位が低いんだよ………!」