【続】三十路で初恋、仕切り直します。
耳の付け根のあたりを強く吸われて、意に反して声が漏れそうになった。歯を食いしばってどうにか堪えようとすると、そんな泰菜の意思をなぶるように今度は湿った舌が首筋を這ってくる。
そこは法資に見出された、泰菜の弱い場所だった。
いつもは法資の熱っぽい吐息を吹きかけられ、唇のやわらかい部分でやさしくくすぐってもらうそこを強引に快感を抉り出されるように舐めまわされていると、奥歯にぎゅっと力を入れていても「ん」と鼻に掛かった甘えた声が抜けてしまう。
法資は当然、泰菜がどうしようもなく反応してしまうことを分かっていて敏感な首筋に執拗に唇を寄せていた。擦りつけられる舌のざらりとした感触に、泰菜の体の奥がきゅうと痺れてくる。
「………おまえの職場、随分楽しそうだな。おまえが若い男の教育係りになってたなんて俺は知らなかった」
また大きな両手が体じゅうをまさぐってくるので、それに気を取られて法資の話がうまく飲み込めなかった。
「丹羽って男に随分肩入れしてるみたいだな」
-----------丹羽くん………?
彼は若い子にしてはすごく仕事勘がよくて周りによく気のつく子で。千恵の後任として、そしてゆくゆくは退社する自分の後任を務められる様に、手を掛けて育てている大事な人材だ。
「……丹羽くんは、……ただの後輩だよ……ほんとうにわたし」
「そのわりに田子さんたちに何度も飲みに誘ってあげてくれって口を利いてやってたし、随分可愛がってるみたいだな。他にもいろいろ口説いてくる男もいるっていうし。フジエダさんだっけか?」
検査課の藤枝に限らず、法資と付き合うようになってから、なぜか妙に職場の社員たちから食事や飲み会に誘われることが増えたけれど。
「……だからそれは口説かれたってほどのことじゃなくて。……それにべつにわたしがどうってわけじゃなくて、うちの工場、女子社員が少なすぎるから………」
女子でさえあれば手当たり次第に声を掛けてくる男性社員がいるだけで、べつにモテているわけではないのに。法資は面白くなさそうに顔を歪める。
「それだけじゃねぇよ。おまえのこと物欲しそうな顔して見やがる男までいるだろ。隅っこに座ってた製造課の課長。……あれっておまえの前の男なんだろ?」