【続】三十路で初恋、仕切り直します。
男の膝頭が見た目以上にごつごつと骨ばっていてひどく固いものなのだと思い知らされながら、声が漏れないように唇を噛み締めていた。
法資は舌や指先だけでなく自分の体のあらゆる部位を使って女の子を煽る方法があることを熟知しているのか、大雑把で乱暴なやり方なのに簡単に泰菜の身体からあやしい熱を引き出していく。
ショーツの薄い布地なんかでは自分のいちばん弱いところを守りきれなくて、ときどきひどく敏感な場所を掠めるその刺激にじわりと身体を潤ませてしまう。
こんな状況でこんな煽られ方をするのははじめてで、混乱と恥ずかしさと悔しさでいっぱいいっぱいなのに。自分に不埒なことをしている法資はひどく落ち着いたような、冷静にも見える顔をしていた。
泰菜にとっては初めての経験でも、法資はこの程度のことには慣れているのか。
もしかしたら法資には今までにも人目があるかもしれない場所で、こんなセックスまがいのいやらしい行為に及んだ経験があったのかもしれない、とふと思う。
法資がモテていたのは高校生のときだけではないのだろうから、大学生のときも社会人になってからも、相手には事欠かなかったはずだ。
リスクのあるセックスやスキンシップなんて、まるで遊びのような感覚でいくらでも愉しみ、誰かに見られるかもしれないスリルを共有してくれる恋人も今までにたくさんいたから、だからこんな場所でこんなに冷めた顔で自分のことを弄んでいられるのかもしれない。
そんな自分の想像にたまらなくなって、目の前の法資をぎゅっと引き寄せた。
法資が今まで何人の女の子と付き合ってきたとか。
どれだけの女の子たちにキスをしてきたのかとか。
どれほど多くの女の子たちを、自分を抱くようなやり方で抱いてきたのかとか。
そんなことは気にするだけ不毛だと思っていたから今まであまり考えないようにしていた。法資はモテる男なのだから恋愛経験がたくさんあって当然だと自分に言い聞かせていた。
でも本当は法資のことが好きだという思いが深まるたび、比例するように不安が膨れ上がり、自分が知らない法資の過去への嫉妬に折り合いを付けられずにいた。
心の底で澱のように淀んでいた消化しきれない感情がこんな状況になって訴えてくる。
----------他の誰かと同じだなんて嫌だ。
法資がこんなに怒ってひどい仕打ちをして詰ってくるのも、自分だからなんだと自惚れたい。
間違いなく自分にとって法資は特別な人だけど、自分が法資の『特別』なのか、考えても分からない。自信もない。けど強く思う。
-----------このひとはわたしのものだ。
そんな思いを込めたぎこちない唇が、法資のそれに触れた。