【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「……俺はまた、自分のことばかり考えておまえの気持ちを考えてなかったんだよな?早く嫁に来いとばかり言って、それがおまえにとってどういうことなのか全然想像出来てなかった」
「やめてよ、そんな」
申し訳なさそうな顔なんてされたくなかった。
さびしさや感傷がありつつも気持ちは法資との結婚に、シンガポールでの新生活に向かおうとしているのに。それを挫かれるようなことを言われるのは、たとえ気遣いだったとしてもかえってつらい。
「そんなこと言われても。……じゃあ法資は、罪悪感があるからわたしとの結婚を躊躇うの?」
「違う。そういうことを言ってるんじゃない」
即座に否定した後。法資はもどかしそうな顔をする。
「……そうじゃなくて、」
うまく言葉がまとまらないのか、日頃の口の上手い彼らしくなく言いよどむ。法資はすこしの合間、必死な顔して言葉を選ぶように口を噤んだ後。不安げにも見える弱気な笑みを浮かべて尋ねてきた。
「俺はおまえに、我慢ばかりさせてるんじゃないのか?」