【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「鉄平?誰か知り合い?」
大きな藤の身体の陰から、ふたり分のコーヒーが乗ったトレイを手にした女の人がひょっこり姿を現した。その顔を見て思わず腰を浮かしかける。
「優衣ちゃん……っ!」
相手も泰菜を見て目を丸くする。
「……え。泰菜?!」
「やだ、久し振り。一昨年の関谷先輩の結婚式以来じゃない?」
そうだねと興奮気味に頷き返してくるのは、藤と同じく英会話サークルに所属していた上山優衣だ。泰菜とは同い年で、学部はちがったものの在学中はよく一緒にごはんを食べに行ったり、一人暮らしの優衣の家に泊まりに行ったりと仲良くつきあっていた。
卒業直後は遊びに行ったりしていたけれど、就職してからは何かと慌しくなったため滅多に会えなくなり、最近はたまにメールのやりとりをするくらいの付き合いになっていた。
「ほんとすごい久し振り、泰菜に会えるなんてうれしいな!でも鉄平よく気付いたね」
「席探してたらなんか相原に良く似たおねえさんがいるなぁって思ったんだけど、本人かどうか話しかけてみないとわからなくてさ」
「たしかに泰菜、ちょっと会わないうちにすごくきれいになったもんね。イケメンな彼氏でも出来たの?」
いいながら優衣の視線がテーブルの上の『ハピマリ』に留まる。
「……あ。もしかして、泰菜もそろそろ結婚?」
訊かれて思わず誤魔化すような笑みを浮かべていた。
「そういう鉄っちゃん先輩と優衣ちゃんも、もしかしなくてもそういうこと?」
尋ねると、藤と優衣が何か面映そうに目配せする。二人の間だけに通じ合うようなその空気が、二人がどんな仲なのかを物語っていた。
「ごめんね、まだ親戚関係にしか報告してないんだけど、実は今月の頭に入籍だけ済ませてて」
「挙式はこれからなんだけど、もうじき招待状送るからさ、相原にも」
そういいながら、藤と優衣は照れたように同じ顔して笑い合う。