【続】三十路で初恋、仕切り直します。
10 --- しあわせの準備

(10)しあわせの準備



「ゴールデンウィーク中の東京ってあんな人だらけだったか?」


隣に並んで歩いている法資がすこし疲れた顔で呟いた。ふたりは式場の下見をするために、昨日から新幹線で都内まで来ていた。

人の多さに酔ったのは泰菜も同じだったけれど、見学しに行ったホテルやレストランの中から無事に希望に合う式場を見つけられたため、今は疲労以上に充実した気持ちだった。


「さあ?わたし地元にいたときから、東京って滅多に行かなかったから分からないなぁ。……ああそっか、法資は大学都内だったんだよね?」


法資は大学生のとき1時間半掛けて実家から電車で通学していたという話を以前聞いていた。当時は地元の桜井町近辺ではなく都心の大学周辺で遊び歩いていたらしく、今日も人ごみの中を慣れた様子で歩き続け泰菜を先導してくれた。


「都内の駅は出口いくつもありすぎだし、乗り換える線もたくさんで全然ダメ。正直法資がいてくれなかったら今日の見学先、半分も周れなかったよ」
「そんなん慣れだよ、慣れ」
「うん。でもわたし、都会の電車ってちょっと苦手かも。難しい」
「難しくなんかねぇよ。……向こうだと買い物行くにしても遊び歩くにしても、移動は殆ど電車だぞ」

「えっ。そうなんだ……」
「でも乗ってりゃすぐ電車のことくらい分かるようになるよ」
「習うより慣れろってこと?」
「そういうことだ」


法資のいう『向こう』が、今彼が赴任している国を指しているのだと気付いてなんだか面映い気持ちになる。

ふたりで挙式の準備をしていることも、あたりまえに挙式後の生活のことを話していることにも戸惑うほどに気持ちが弾んでしまう。



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