【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「今更だけど、こんな流れ作業的に決めていって本当によかったのか?」

法資はもうすこし時間を掛けて会場を決めてもよかったのではないかと泰菜を気遣うようなことを言う。だから本心からの気持ちで「うん、いいの」と答える。


「だってちゃんといいなって思えるとこ見つかったし。十分だよ」


きっと結婚式の会場をこだわって選ぼうとすると何軒見学に行っても足らないくらいだろう。

結婚式なんてこだわろうと思えばいくらでもこだわりたくなってしまうものだろうし、選択肢も数限りなくあるのだろうから悩んでいたらきりがない。

迷った挙句に挙式の準備に時間が掛かって、またシンガポールに行く時期が延びてしまうのがいちばん嫌だったので、『挙式する時期』を最優先の条件にして会場を選んでいってむしろよかったのかもしれないとすら思っていた。

その上今日ウェディングプランを予約したレストランは好感が持てるスタッフが揃っていて、会場も素敵だと思える雰囲気があったのだから、急いで見付けたにしては上出来だろう。



「あのレストラン、駅からちょっと歩くのが難点だけど、評判通りランチおいしかったし。ウェディングプランナーの伊田さんも会った中でいちばん丁寧で感じのいい人だったじゃない」
「まあ説明も的確でプランニングのシートも分かりやすかったな。そういやあの人の紹介カードの経歴見たら独立する前はH&Lホテルグループでプランナーしてたって書いてあった」

「そうなんだ。なんかすごい物腰丁寧で説明分かりやすくて、いい仕事してるなあって思ったけど。そんな大手に勤めてた人なんだ」
「ああ。20年勤めて、もっと自分の采配で細かいところまで挙式に携わってみたいからフリーになったって。独立してからもう3年になるっていうし、あのレストランでももう10件以上挙式扱ったっていうから実績としてはまずまずだろ。ああいう勝手が分かってるベテラン格のスタッフがいりゃ、まあ安心だな」


思ったよりも熱心に渡された見積もり書やパンフレットを読み込んでいたらしい法資に、くすぐったい気持ちになる。


「法資って勉強以外でも真面目っていうか一生懸命になるタイプなのね」
「……っつうか向こうに戻ったらほとんど手伝ってやれなくて挙式関係ほぼおまえ任せになるからな」

いくらか申し訳なさそうな顔をして法資が頭を撫でてくる。

「せめて一緒に考えてやれるときくらいはやれることはやるよ」

ありがとう、と言おうとすると先に「礼なんていうなよ」と押し留められた。

「挙式の準備が面倒なもんだと知らなかったとはいえ、こんな大変なことおまえひとりに丸投げしようとしてたんだからな。……ほんと、愛想尽かす前にはっきり言えよ、今度から」




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