【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「うん。だから法資にも準備、頑張ってもらうから」
「何でも言えよ。挙式はともかく、披露宴は静岡と東京の両方でやるから準備も倍になるわけなんだし」


法資と話し合った結果、披露宴は法資と泰菜の知人・仕事関係者がそれぞれ静岡と東京に分散しているため、二箇所で催すことにした。

静岡では泰菜の職場の同僚や上司、大学時代の友人や恩師を招き、東京ではそれぞれの地元の友人や、法資の大学時代の友人、東京本社にいる法資の仕事関係の知人を中心に招く予定だ。

静岡でも東京でもカジュアルな1.5次会形式の披露宴を催すことにして、そのスタイルに合う会場を探した結果両方ともウェディングプランがあり、貸し切りに出来るレストランを選んだ。


「法資がシンガポール帰る前に、あと結婚指輪も選ばないといけないしね。でもとりあえず法資は招待状送るための住所名簿を早くつくっておいてね」
「悪いな、住所は訊いて返信待ちだからもうすこし時間くれ。……あと指輪か。肝心なこと忘れてた。ほんとに準備しなきゃいけないことがたくさんあるな」

ぼやくように呟いた法資とは対照的に、泰菜は顔は自然と笑みを形作っていた。それに気付いた法資が「どうした?」と訊いてくる。

「ううん。ほんと疲れちゃうけど。でも人生で一度きりのことだし、ちゃんとこの大変さもたのしまないとなって思って」

意気込む泰菜に、法資がくつくつ笑い出す。

「な、なに?」
「………いや。ほんとに俺はいい嫁もらったなと思って」


隣でしみじみ言われて、なんだかむずかゆくなってしまう。


「……まだ嫁じゃないけど、」
「戸籍上はな」


まるで心情的にはもう夫婦であるような気分だと言われたようで、なんともいえない照れが熱になって顔面にじわじわ広がっていく。


「おまえのそういう前向きなとこ、好い。素直に惚れる」
「………とりあえず、今日はお父さんたちにちゃんと挨拶しないとね。Louison(ルイゾン)で手土産になる焼き菓子買えてよかったね。伊田さんのおススメで選んだこのタルト、おいしそうだし。おじさんにも喜んでもらえるといいけど」


照れ臭くて法資の言葉を聞き流したふりをすると、法資がおかしそうに片目を細めた。


「挨拶って言ってもなぁ。親父たちだけじゃなくて、なんか今日はウチに兄貴たちも来るらしいぞ」
「……えっ、英達にいちゃんたちも?」



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