【続】三十路で初恋、仕切り直します。
11 --- はつこいの話

(11)はつこいのはなし


「あれ?法資と泰菜ちゃん?」


泰菜たちが声を掛けるより先に、彼らに気付いた英達が声を掛けてきた。


「お久し振りです、英達おにいちゃん、晶さんも」
「泰菜ちゃん、久し振り。今日は遠いところご苦労様」

英達が子供のときから変わらないいかにも温和そうな顔で笑むと、チャイルドシートから下ろした赤ん坊を抱いた
晶が、隣に並びがてら英達をどついた。

「……っいたっ、ちょっと何するんだよ、」
「もう英達。『変わらないなぁ』じゃなくて、まずは泰菜ちゃんと自分の弟にお祝いの言葉でしょ?」

晶に睨まれて一瞬ぽかんとした顔になった英達が、はっとして「この度は結婚おまでとうございますっ」と勢いよく頭を下げた。すると晶も夫に倣って、息子の英人を抱いたまま「おめでとうございます」と頭を下げる。

学生時代は部活のキャプテンや生徒会役員を任されることの多かった晶は、仕切り上手な確り者だったけれど家庭では要所要所では夫を立てることを忘れない人だ。やさしいけれどちょっと頼りないくらい抜けたところのある英達とは実に相性のいい夫婦だった。


「……どーも、ご丁寧に」
「あ、ありがとうございます」

法資と泰菜それぞれ謝意を口にすると、英達と晶が顔を見合わせてにやにや笑い出す。

「なんだよ、あんたら」
「やあ、ほんとに泰菜ちゃんがうちの法資のお嫁さんになってくれるなんて俺思わなくてさ」
「ほんとよかったわねぇ、法くん。苦節何十年の初恋がどうにか実って」

「………何言ってんすか、姉貴は」


まるで動揺を隠すためのように声のトーンが低くなった法資に「やだ。バレてないとでも思ってたの?」と言って晶がにんまりと笑う。




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