【続】三十路で初恋、仕切り直します。
泰菜も薄々気付いていたけれど、大学在学中優衣は藤のことをちゃんと異性として好きだったらしい。けれど恋愛に興味がなさそうで誰にもやさしく誰にも同じ態度を取る藤に思いを告げることが出来ず、藤の卒業とともに恋を諦めたのだという。
たまにOB・OG会で会うことはあったものの、藤のことはもう過去のことだと思っていたのに、再会したその日酔い潰れそうになっていたみっともない藤の姿を見て、自分でも戸惑うほどの感情が沸いてきたのだという。
「なんかね、落ちきってる鉄平の姿見て、私がこの人幸せにしてあげなきゃっていう使命感っていうか、この人ボロボロにした元カノに代って、面倒みてあげたいなっていう気持ちになっちゃってね」
かつて恋心を抱いていた相手の情けない姿を見て、優衣は冷めるどころか母性本能のようなあたたかな気持ちが芽生えたらしい。
「私もたまたまフリーだったし。神様が『この人貰っちゃいなよ』って言ってる気がしたの」
それで酔っ払った藤を甲斐甲斐しく介抱し、その後も体調を気遣うメールを送ったりしているうちに休日に一緒にご飯を食べに行く仲になり、再会していくらもたたないうちに藤の方から告白してきたという。
「弱っているところにつけ込むなんて卑怯かなとも思ったんだけどさ。……結局ね、あの人がダサくても多少汗臭くても、好きみたいなんだよね、わたし」
そういって俯きながら、優衣ははにかむように笑っていた。そのしあわせにとろけた横顔がすごくきれいに見える。
---------鉄っちゃん先輩のことがほんとに好きなんだな。
そしてその好きな人の傍に妻としていられることに、心からのしあわせを感じているのだろう。それが伝わってくる優衣の笑顔が、今の泰菜には眩しく見える。泰菜の視線に気付いて優衣が「なあに?」と訊いてくる。
「ううん。優衣ちゃん、可愛いなぁって思って」
「……っやめてよ。そんなこと言ったら泰菜の方がすごく可愛くなったよ。なんかおしゃれだし」
「そんなことないってば。おしゃれっていえば、鉄っちゃん先輩すごい素敵じゃない。夫婦のお出掛けのときにあんなおしゃれしてくれるなんて、先輩、優衣好みになるために努力してるんじゃないの?」
「……今日は特別なのよ。ホテルのブライダルフェア行った帰りで。さすがにそういう会場に、汚い恰好で行かせるわけにはいかないから、わたしが見立てたのよ」
「ブライダルフェア?」
「ほら海岸沿いのスターライトホテル。あそこで今日やってるのよ」