【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「あ、でも晶さん。わたしも法資の服の中にダンゴムシとかバッタとか入れてやり返したことあるから、どっちもどっちですよ」
「いいの、泰菜ちゃん。そんなことする奴を庇わなくたって。ねえ英人。英人は叔父さんみたいな男の子になっちゃだめよ?」
晶が腕の中で眠る息子に語りかけた後、法資に冷ややかな視線を向ける。
「法くん、いくら子供だったからって、好きな子によくそこまでえげつないこと出来たわね。はっきり言って最悪よ」
「今更勘弁してくれよ。……っつうかよく分からなかったっていうか。ガキの頃は泰菜のことなんてあえて好きだ嫌いだなんて考えたこともなかったんだよ」
子供の頃から苦手にしている晶の前で、法資はとても決まりが悪そうに濁した言い方をする。
「何それ。まさか張本人の法くんまで自覚してなかったの?」
「……だからもういいだろ、そういう話は」
「幼稚園の頃からあたしにも分かるくらいあんなにあからさまだったのに。……泰菜ちゃんよりちっちゃくってクラスで前から何番目ってくらい小柄だったくせに、いつだったか泰菜ちゃんのスカート捲ってからかってた小学生並みに体格のよかった男の子、一人でボコボコにして帰ってきたこともあったじゃない?」
「ああ、あったねぇ。確かあれからだよね、法資がここらのガキ大将格になって恐れられるようになったの」
法資はあまり振り返りたくない子供の頃の思い出話を次々に披露していく兄夫婦に鬱陶しそうな顔をした後、溜息を吐いてふたりを促した。
「いいからあんたら。ともかく家上がるぞ。英人だって熱いだろ、汗掻いてるだろが」
「あらやだ、ほんと。びっしょり」
「ごめんなぁ、えっちゃん。パパとシャワー浴びようなぁ」
さんざん法資をいじっていた兄夫婦たちの興味も目の前の我が子には敵わないらしく、英達たちはむずかりながら目を覚ました英人に競い合うように話掛けながら、先に桃木家の玄関口へと進んでいった。