【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「どうでしょう。……でもえっちゃんはすごく好きです」
「まあよかったわね、えっちゃん」
「えっちゃん、かわいいですもん」
まるで泰菜の言っている言葉が理解出来ているかのように、振り返った英人が泰菜を見てやわらかそうな頬っぺたを弾ませにたっと笑った。
その顔が、先ほど法資の父親が出してくれたアルバムに載っていた、法資の幼い頃の表情にどことなく似て見えるから余計に英人のことがいとおしく思えてしまう。
「こんなかわいい子が生まれたらしあわせですよね」
「そうね。最近夜泣きが始まってちょっとしんどいときもあるけど。でもうん、今しあわせよ」
晶が目をまぶしそうに細めて我が子の頭をやさしく撫でると、英人もうれしそうに声を上げて甘えるように晶の指を掴む。満たされた顔で英人を見る晶が昔よりもずっときれいに見える。その光景を素直にうらやましいと思った。それで無意識に「赤ちゃん、いいですね」などと呟いてしまった。
すると晶が「でしょう?」と朗らかに返してくる。
「泰菜ちゃんも欲しいなら早い方がいいわよ。大きなお世話だと分かってるけどね、あたしなんて結局授かるまで治療期間も含めて3年も掛かったからね。30半ば越えてからだと体力なくて産むのも育てるのも苦労するし。そういう思いするのはあたしだけでたくさんよ」
晶がごくさらりと言う。明るい顔をしているけれど、英人を見る晶の目には深い感慨が篭っていた。今まで知らなかったけれど、どうやら英人は大変な思いをして授かった子らしい。
けれど晶がそんな苦労の表情を見せたのも一瞬で、晶は泰菜の隣に座っていた法資を見るといたずらな表情を浮かべた。
「法くん、聞いてた?あなたさっさと赤ちゃん仕込んであげなさいよっ」
そう言って晶は法資の背中をバンッと手のひらで豪快に叩いた。黙っていれば美人の部類なのに、少々がさつなところのある晶の振る舞いに、法資がむせてぐぅっと奇妙な声を上げる。