【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「ねえ、泰菜ちゃん?泰菜ちゃんは結婚してすぐに授かってもかまわないんでしょ?」
「……おい。痛いだろ、この乱暴者。英人が真似すんぞ。ってか相変わらずデリカシーのない女だな」
おおっぴらに口にするにはナイーブで気恥ずかしい話題に泰菜が口篭っていると、法資が見てられないとばかりに割って入ってきた。
「泰菜はあんたと違うんだからそういう話題、こんなとこで大きな声で言うなよ」
「……よく言うわ。その大事な泰菜ちゃんにいちばんデリカシーのない真似してたの、どこのどいつよ?」
晶も負けずに子供の頃そうやってやりこめていたように、ぐっと張り出すように法資を見下ろす。
「泰菜ちゃんが忘れてもあたしは忘れませんからね?太ってもない泰菜ちゃんのことさんざん『ぽちゃ』呼ばわりしたり『ペチャパイ』だってからかったり、挙句の果てには……」
「あ、あの晶さん!英人くん、おっぱいの時間ですか?なんだかむずがってて」
子供の頃のことを引き合いに出されるとどうしても法資の分が悪くなる。法資に助け舟を出すつもりで晶に英人を示して見せると、晶はすぐに「どれどれ」と母親の顔になって英人を見遣った。
「あらあら、おむつ濡れてるわね、ぱんぱんじゃない。えっちゃん今替えてあげますからね。……じゃ、法くん頼んだから」
「………はっ……俺がッ?!」
突然役目を振られた法資が、悲鳴みたいな声を上げるのがおかしかった。
「そうよ。今時男の人だって、おむつのひとつも替えられなきゃ。ましてやあなたもうすぐ結婚するんだし」
「いらねぇ世話だ、なんでも自分の基準で話するなよ。それに俺だってその時になりゃ自分の子供のオムツくらい替えるっつの」
「あら本当?言ったからにはちゃんとイクメンになるのよ?ちっちは替えられてもうんちのときだけ『ママ、お願い~』じゃ困るんだからね?ちゃんと我が子のお尻くらい拭いてあげるのよ?」
「……俺はともかく兄貴はどうなんだよ?ちゃんとあんたイクメンに躾けてやってんのか?俺のことより自分の旦那のことを先に」
「あ、あの」
応酬が止らない法資と晶を見ているのもそれはそれで楽しかったけれど。
言い合いをする母親と叔父との間で英人がふっくらした顔を歪ませていたから「晶さん。英人ちゃんのおむつ替え、わたしやってみてもいいですか?」と申し出た。