【続】三十路で初恋、仕切り直します。
12 --- あの夜のことと、これからと
(12)あの夜のことと、これからと
「すっかり遅くなっちゃったね」
法資の実家での両家顔合わせの後。
ふたりが昨日から宿泊中の都内のホテルに戻ってきたのは22時を過ぎてからだった。本当はもっと早く桜井町を出る予定だったけれど、酒に酔った英達や父たちに引き止められ、だらだらと話をしながら酒を飲み交わしているうちにこんな時間になってしまった。
「さすがに疲れた。おまえのとこもウチもみんなうわばみだから、飲みだすとキリねぇな」
「紀子さんもすごい酒豪だったしね。でもお父さんたちも飲むと笑い上戸になるから楽しくなっていいよね」
話しながら部屋の窓辺に歩んでレースのカーテンを開けた。
ガラス一枚越しの眼下には東京らしい猥雑なネオンが、そして遠方には皓々と無数の明かりをきらめかせる夜景が目に入る。
中途半端な階層のため見られる夜景は感動するほどうつくしいものではなかったけれど、普段外灯も少ない田舎に暮らしているので、物珍しさもあって都会の夜に視線を向けていた。
「どうした?」
「ううん。……昨日は全然外見てる余裕もなかったなぁって思って」
昨日は私鉄と新幹線とを乗り継いで東京まで出てきて、その足で会場巡りをしてからのチェックインだったから、法資も泰菜も疲れてろくにホテルの部屋を見ていなかった。
「悪いな、たいしたホテルじゃなくて。もっといいとこ泊めてやりたかったんだけどな」
数日前にこのシティホテルに予約を入れたのは法資だった。
連休中ということもあり宿泊料金は釣りあがっていたけれど、ツインの客室はとてもゆったりしていたし、都会のホテルらしく内装もほどよく洗練されていて清潔感があり、法資がすまなそうな顔をするほど悪いホテルではなかった。
「いいよ。ここだって十分きれいじゃない?」
「けど景色見たかったなら、湾岸のほうとかもっといいホテルあったのにな」
「……だからいいんだってば」
法資が何気なく漏らした言葉が胸に引っ掛かってしまう。それで帰る道すがらずっと「何も言うまい」と思っていたはずなのについ余計な言葉が無意識にこぼれてしまった。
「昔彼女と来たホテルじゃないなら別にわたしはここでいいよ……」