【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「機嫌直せよ。全部昔のことだろ」
「……わかってます」
『気にしない気にしない』とずっと胸の中で唱え続けていたはずなのに、つい返す言葉がつっけんどんになってしまう。
昔法資が、父親が仕事や旅行などで留守にしていたときによく女の子を家に連れ込んでいたことや、高校のときからはじまった朝帰りが大学になってからは頻繁になり、ついには家に帰ってこなくなった時期があったこと。たまに家に帰ってきても毎回連れ歩く女の子が違っていたこと。
そのあたりのことは英達から詳しく聞かなくてもなんとなく察していたことだった。
社会人になってから父親や兄の英達に「結婚を考えている」と言ってきちんと紹介した恋人がいることも、以前本人の口から聞いたことがあった。
けれど法資自身から聞くより身内の言葉で語られる話のほうが妙なリアリティがあって、うまく消化出来ないもやもやした気分が棘になって自分の胸にいくつも突き刺さってきた。
その痛みが今になってじわじわ胸を侵食してくる。顔を歪めて押し黙っていると、法資が溜息を吐きながら不満そうに言ってきた。
「……そんな顔するくらいなら、あのクソ兄貴の口塞いででも聞かなきゃよかっただろ」
そんなことは分かっていた。……場の空気を悪くしたくなかったから英達を止めなかったというのも、ただの詭弁だということも分かっている。
法資の過去の華やかな交際歴のことは知らないままでいたいと思っていたのも本音だけど、知っておきたいと思ったのも本音だった。だから英達を話すがままにさせてしまった。
法資に派手に遊んでいた過去があることがショックというより、自分が望んで聞いたはずの話に、しかも法資がいい顔をしていなかったことに気付いていながら聞いた話だったのに、想像以上にダメージを食らってしまっている自分が情けなくて落ち込んでいた。