拝啓、大嫌いな神様
敵を愛し、迫害するものの為に祈れ


『さて、次のニュースです』


 画面越し。綺麗に着飾った女が愛らしい笑顔を振り撒きながら、決められた台詞を発していた。


『本日未明、五人の男性と見られる遺体が××区で発見されました』


 アナウンサーという職に就いてるのだから、この女はそれなりに頭も良いのだろう。

 ニュースに支障のない程度に苦しげな同情の色を浮かばせる辺りは、もう絶賛したい程だ。世の中を上手に渡る術を心得ている。それが無意識か意識的なのかまでは判断はつかないが。


 ───あぁ。そういえばこの女は、つい先日もバラエティー番組のレギュラーに選ばれたばかりだったか。

 いや、今はそんなことはどうでもいいのだ。



 “彼女”が気になっているのは、そんなことではないのだから。


『遺体は二十代から四十代のものと見られていますが、男性の身元は不明。遺体には幾つもの銃痕や刃物のようなもので傷付けられた痕があり、凶器は未だ見付かっておりません』


「……物騒な世の中」



 “彼女”は画面に映る映像を横目に、形の良い唇へと紅茶を運びながら気だるげに呟いた。

 黒と白を基調とした、少し変わった形のセーラー服。胸元にある赤いネクタイ調のリボンが可愛らしく映る。鎖骨辺りまで伸びた黒髪は癖っ毛らしく、不規則に跳ねていた。


『遺体には蝶の刺青があり、同じような手口で蝶の刺青を持った殺人事件は過去に何度もあった事例の為、警察は何らかの事件に関与しているとして───』


 ブツリ。

 不規則に途切れた声。真っ暗になったテレビの画面に映った“彼女”の手には、黒いリモコンが握られている。


「……何も知らないっていうのも、残酷ね」



 時刻は丁度、八時を指していた。
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