ラベンダーと星空の約束+α
返事を待っている留美は、クリクリとした瞳に涙を溜めながらも、
明らかに「Yes」の答えを期待している。
少し考えてから、諭(サト)すように彼女に言う。
「あのさ、留美が俺を好きで、仮に俺も同じだとしてもさ、俺らまだ小学生だぞ?
付き合うとか結婚とか、早過ぎるだろ」
「そんなことないよ!
紫龍君のお母さんは、紫龍君の亡くなったお父さんに、子供の頃結婚指輪もらったって言ってたもん」
留美って意外と情報通だな…
けど母さんがもらった指輪は、子供の頃は結婚の意味合いはなかった筈だ。
まぁ仮に俺らと同じ年頃から母さん達が結婚を意識していたとしても、それは特殊だ。
小学生のうちから将来のパートナーと恋愛を始めるなんて、一般的ではない。
「俺の両親は特殊なんだよ。
大体、小学生が付き合うって何すればいいんだ?
俺とお前ん家遠いから、放課後一緒に遊ぶのは無理だぞ?
お前、俺と付き合って何したいわけ?」
「えっとね、一緒に帰ったり…」
「それは今も同じだろ。
分かれ道までは大抵一緒に帰ってる。
留美が付いて来るからな」
「えっとね、それだけじゃなくて…一緒に帰る時に手を繋ぐの…」
「ふーん…こんな感じ?」
泣かせてしまったお詫びと、留美の機嫌が直るならと思い、
右手で彼女の左手を取ると、白い頬がピンクに染まった。
なんだ…
付き合うって、手を繋いで一緒に帰ればいいだけの話しか。
誰も見ていない所ならそれでもいい。
つまんない話しに相槌を打ち続けるより、無言で手を繋いで歩く方が楽だな。
「付き合うって、こんなんでいいのか」
「あとね、えっと…」
「何?まだ何か要望あんの?
いいよ言って?」
「えーとね、えっと…ス…ス…ス…」
「酢?」
「違うよ!
えっと…私の事を…ス…ス…」
早く「ス」の先を言え…
そう思うが、留美は「ス」を連呼して、結局その後何も言わずに黙り込んでしまった。
ただ目線だけは落ち着かず、言いたい事を言えずにいるのが伝わって来る。