ラベンダーと星空の約束+α
ご機嫌な大地の横で、読み掛けの本を開いた。
書斎にある本を全て読んでみようと決意したのは、小学5年生の時。
数百冊の蔵書の内、4分の3は洋書だ。
これを読破するには時間が掛かる。
日本語の本はかなり前に読み終わり、ロシア文学を読み始めてから一年と少しが経つ。
辞書を引く回数は減り、大分スムーズに読めるようになったと思う。
しかしロシア文学の蔵書は後数冊で終わるが、それが終わっても、まだまだ読まなければならない本は眠っている。
英語、フランス語、ドイツ語…
それらを読み終える日はまだ遠く、中々写真の父さんに追い付けない。
テレビから流れる子供の歌を耳にしながら、本の世界に入っていた。
激動のロシア革命で翻弄される一人の少年の人生に同情していると、
リビングのドア横で、家の電話が鳴り出した。
電話台に駆け寄り、3回コールで受話器を取る。
大地の様子を気にして母さんが掛けてきたのかと予想したが、違った。
受話器の向こうには、俺の担任の先生の声がした。
「何だ大原、家に居たのか?
(紫龍の名字は、月岡ではなく大原です)」
「先生、いないと思って掛けたんですか?」
「ハハッまぁそうだ。
居なくても最初に家に掛けるのが、鉄則だからな」
「俺、今日は学校行けませんけど。
連絡なかったですか?」
「ああ、なかった。
お前の母さん忘れたみたいだな。
店で働いてるのは分かっているが、一応確認な。
これも教師の義務ってやつだ。
だけどお前、何で家に居る?店は?」
「今日は弟が熱を出して、他に看病できる人が……うわあっ!!」
「大原?どうした?」
「大地待った!ダメ!そこに居て!
先生、弟が大変なのでこれで切ります」
「おお…何か大変な時に電話してスマンな。頑張れ」
電話中、いつの間にか2階へ続く階段を登っていた大地。
登るのはいい。
一段ずつだけど、もう上手に上れるから心配ない。
しかし一人で下りるのは危険だ。
大地はまだ1歳9ヶ月。
手を繋いで一緒に下りるか、抱っこして下ろすか、どちらかだ。