ラベンダーと星空の約束+α
「年月が経ったなぁ…と感じるでしょ?
流星が居なくても、私は長い月日をちゃんと生きてきたんだよって言う証。
だから色褪せてもいいんだよ…」
かつて母さんはそう言った。
どこか遠い目をして、想い出をなぞりながら…
たまにこの書斎に一人で座る母さんを見る。
空に蠍座が見えない時は、この書斎が一番父さんに近い場所らしい。
この椅子に座り、写真を見ながら語り掛ける母さん。
その話しの内容は、ドアが開いていれば、隣の部屋の俺に筒抜けだった。
最近聴こえた話しは、こんな内容だった…――――
「ねぇ流星、どうしたらいいと思う?
紫龍って、女の子に優しくないんだよ。
すっかり大人びちゃって、学校の話しをしてくれなくなったけど、情報源はあるんだ。
稲田のおばさんからの情報によるとね、紫龍は女の子に告白されても、ニコリともぜず冷たく振るらしいよ?
全校女子が紫龍に振られたとも聞いた。
あの子、女の子は嫌いなのかなぁ…」
そんな母さんの独り言が聴こえて、俺は読み掛けの本を閉じ、自分の部屋でボソリと反論していた。
「稲田のおばさんの情報はいつだっていい加減だ。信じないでくれ…」
と…
中学に入学してまだ4ヶ月。
いくら少人数の学校とは言え、全校女子に告白される訳ないだろ。
実際に告白されたのは5人だ。
全校女子の人数の6分の1。
話しを盛りすぎだ。
それに冷たく振ったりはしていない。
「好き」と言われたら、ちゃんと「ありがとう」とお礼を言っている。
好意を受け止めて更に、
「で?それから?どうしたいの?」
わざわざ希望まで聞いてあげている。
俺としては丁寧に対応しているつもりなんだけどな…
あ…けど、そう言ったら泣いちゃった子もいたな。
何か間違っているのかな……
自分の言動を振り返り考えていたが、分からない俺の代わりに、母さんが結論を出してくれた。
「流星は女の子に優しかったよね。
女の子には一律に優しくて……
優しいって言わないか…チャラかったよね。
『〇〇ちゃん、ますます惚れちゃう〜』とか言って、高校生の頃はチャラかったよね。
チャラ男に比べたら、硬派な方がいいか…
うん。紫龍はこれでいい。ちゃんと育ってる。良かった」
母さんの結論では、俺はこのままでいいらしい。
「変われ」って言われなくて良かった。