ラベンダーと星空の約束+α
それにしても、写真の父さんは若い頃チャラかったのか。
それは初耳だ。
文系真面目男子のイメージだったけど、違うんだ。
へぇー。
こんな風に書斎での母さんの独り言は、大抵俺に関する相談。
でも最後には
「これでいいよね」
と言う結論に達して、
「流星聞いてくれてありがとう」
と書斎を出て行く。
書斎は母さんの悩み相談室。
写真の父さんはいつも無言で、悩みを解決してあげている。
書斎で独り言を言うのは、母さんだけではない。
家族はそれぞれ色んな内容で、この書斎に話しをしに来る。
父さんの場合は、こんな感じだ…―――
「おい流星、てめぇな、
紫の夢に出て来んのはいいけどな、俺の夢には出て来んな。
目覚めが悪りぃ。
なんで俺がてめぇと肩組んで、二人三脚走んなきゃなんねぇのよ…
しかもてめぇは、スタートですっ転びやがってよ、1位取れなかったじゃねぇか。
いいか、二人三脚ってヤツはな、1が外側の足で2が内側の足を出すって決まってんだ。
てめぇはそっから間違ってる。
それにしてもよ…
アレ、何の大会だったんだ?運動会の父兄参加か?
どんな大会でも俺は負けるのは嫌いだ。
次は俺の足を引っ張るな。
天国で周りのジジィでも捕まえて、練習しとけ」
それが聴こえて来た時、可笑しくて我慢し切れず、吹き出してしまった。
そうしたら父さんがのっそりと俺の部屋に入って来て、
「盗み聞きは趣味悪りぃぞ」って、
2ミリ程生えた顎髭をジョリジョリと顔に擦り付けられた。
言って置くが盗み聞きしているつもりはない。
俺の部屋が書斎の隣だから、聴こえてしまうのは仕方ないんだ。
父さん母さんが写真の父さんと話したい気持ちは分かる。
親しい間柄だった訳だし、当たり前だ。
しかし、最近は妹達まで書斎に入るようになった。
自分とは血の繋がりもないし、会った事もないのに、
俺の真似して「写真のお父さん」なんて呼んでいる。
ある日の登校前の朝、
彩香は写真立ての前で手を合わせ、こんな事を言っていた…―――
「写真のお父さん、あのね、今日漢字のテストがあるんだけど、彩香全然勉強してないの。
だってね、大地が遊んでって言うから勉強できなかったの。
彩香悪くないよね。
だからお願いします。
勉強してないけど、100点取れますように!」