ラベンダーと星空の約束+α
「しゃーしゃん、わんわんね、
〇×#×ってね、*〇&×$たの。
おねぇらいしゅ!」
意味不明だ。
だが、大地の言う「おねぇらいす」が「お願いします」だと言うのは知ってる。
決してキモイ食べ物ではない。
「わんわん」と言ったのも分かった。
でも他は全く分からない。
万が一写真の父さんに神通力があったとしても、これは流石にどうにも出来ないだろう。
俺にさえ何言ってんのか分からないんだ。
大地の言葉を父さんが理解できる筈がない。
そう思っていたが…
突然、両親の寝室からメロディーが鳴り出した。
この歌は…
大地のお気に入りの“音の鳴る絵本”に入っている“犬のおまわりさん”
大地が喜んで体を揺らし、歌いだした。
俺は写真立てから目が離せなかった。
背中には冷汗が流れる。
写真の父さん…マジですか……
身内だから怖くはないけど…あ、やっぱ少し怖い。
その内写真の中から抜け出して来たりしないよね…?
そう言うのは勘弁して欲しい。
出て来るなら、喜びそうな母さんの前だけにして…
大地が俺の膝から下りたがったので、ティッシュの箱を持たせて床に下ろした。
大地は床にペタリとお尻を付けて座り、ティッシュを一枚一枚、一心不乱に引っ張り出し始めた。
普段は「ダメダメ」と言ってそんな事はさせないが、今は写真の父さんと話したいからいい事にする。
散乱したティッシュは、後で畳み直して俺の部屋で使えばいいさ。
紺色のフレームの中に向けて「父さん…」と話し掛ける。
「父さんあのさ、明日は父さんの命日で、俺の13回目の誕生日だろ?
この前母さんに言われたんだ、
7月19日に、俺が生まれた日の出来事を教えるって…
今までは聞いても教えてくれなかったけど、俺が中学生になって少し大人になったから、話す気になったみたいだよ。
まだ聞いてないけどさ…薄々気付いてるよ…
父さんの死は、俺の誕生に関わりがあるって……
きっと俺と母さんの命を守って死んだんじゃないかって…ずっと思ってきた。
そうなんでしょ?父さん…」
明るい日だまりになっていた机の上に、急に影がさす。
もっさりした雲の固まりが眩しい太陽光を遮り、父さんの顔も日陰の中に入った。