ラベンダーと星空の約束+α
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◇◇◇
[夢で逢えたら…side 紫龍]
夏のある日、俺は夕陽を浴びる書斎にいた。
開け放した窓からは観光客の声と、駐車場の車の音、それから父さんの畑のトラクターのエンジン音も微かに聴こえていた。
その音を耳にしながら一人書斎の机に向かい、本を読む。
時折吹き込むラベンダー色の風が、俺の茶色の前髪を優しく揺すっていた。
夏の観光日和の夕暮れ、家族が皆働いている中で、俺だけ呑気に読書している。
大地は元気に保育園だ。
俺が面倒見る必要はないのに、なぜ俺は家にいるのか……
ふとそう考えて
「ああ、そうか」
とすぐに納得した。
手元のフランス語の本から視線を離し、部屋全体を見回した。
いつもの書斎だ。
しかし、いつもと違う点もあった。
丸い壁掛け時計は秒針が進んだり戻ったり、スピードを上げたり止まってみたり…
今は夕陽が差し込む時間なのに、勝手気ままに遊ぶ時計の短針は、10時を指していた。
壁をぐるりと取り巻く書棚もおかしい。
数百冊の本達が、日本語、フランス語、ロシア語、英語…
書かれている各国の言葉で、ひそひそコソコソとお喋りしていた。
これは夢だと気付き納得する。
夢の世界では非現実的なストーリーが展開するのが定石だ。
時計が勝手に動こうが本達が会話していようが、驚く理由にはならない。
平常心で再び手元の本に意識を戻そうとした。
すると今度は机上の写真立てが俺を呼ぶ。
「紫龍…紫龍…聞こえる?」
「…… 父さん?」
これには幾らか驚いた。
しかし「そうだった、今は夢の中にいたんだ…」
再びその理由ですんなり納得し、怖くも不思議にも思わなかった。