ラベンダーと星空の約束+α
ガラス面に夕陽を反射させながら、父さんが話し掛ける。
「紫龍……はさ……と君に……」
その声は小さく途切れ途切れで、聞き取れない。
ガラスが邪魔をしているのか?
「父さん、何言ってんのか全然聞こえないよ。
出て来てよ。夢だから何でもアリだろ?」
父さんが苦笑いして指でOKサインを作る。
そしてフレームの中が一瞬にして空っぽになった。
写真から抜け出してどこにいるんだろうとキョロキョロしていると、
デスク前の何もない空間に光のラインが走り、長方形の空間が切り抜かれた。
大きさと形からして、ドアだろうと推測する。
空中に描かれた光の扉。
ドアノブが回り、ドアを押し開いて父さんが現れるのかと思ったら……
襖(フスマ)のように戸が横にずらされるから、ずっこけてしまった。
「そのドア…引き戸なんだ……」
「そうみたいだね。
ハハッ 押しても引いても開かないから、俺も戸惑った」
父さんは笑いながら光の引き戸を閉める。
すると扉はたちまち消えて、眩しかった書斎は元の穏やかな夕暮れの中に戻った。
父さんは写真の中と同じ白いワイシャツを着ていた。
衿のボタンは二つ外してあり、喉仏の下に手術跡がはっきりと見える。
下はダークグリーンの綿素材のストレートパンツで、
写真には写っていない部分の服装は、こんな感じなのかと興味を持って見ていた。
「やあ」と気さくに話し掛ける父さんと、机を挟んで向かい合う。
茶色の髪と瞳、右頬の笑窪、見れば見るほど良く似た顔。
初対面の父さんを正面にして、開口一番こんな感想を言ってしまった。
「父さんて…
すげぇ俺に似てる…」
途端に父さんが「アハハッ」と肩を揺らして笑い出した。
「逆だよ。俺が紫龍に似たんじゃない。
君が俺に似ているんだ。息子だからね。
それにしても、こうして対面すると鏡を見ている気分だな…紫に似ているところはどこかな…?」
母さんに似ているところは…余りない。
今の父さんが言うには「つむじの向きと耳と爪の形」だけは母さん似らしいが…
それを目の前の父さんに言うと、また笑われた。
それから「中身も紫に似ているところがある」と、思いもしない事を言われてしまった。
「ゲッ…性格が母さんに似てるって…何か嫌なんだけど…」