ラベンダーと星空の約束+α
母さんは口煩い。
あれこれ命令して持論を押し付けて来るが、それが間違っている時も沢山ある。
なんかいつも忙しなくてバタバタしてるし…
俺って、そんな母さんに似てるのか?
似てないだろ…
否定したい俺を、父さんは楽しそうな顔して見ている。
「似ているよ。
そうだな、一例を上げれば…紫龍は女の子の告白を断る時どうしているんだっけ?
この前紫が俺に相談して来たよ。
『紫龍が女の子に優しくない』ってさ」
ああ…それは俺も聴いてしまった。
この書斎で母さんが写真に向けて語り掛けていた話し…
でも、独り言を言った後母さんは『紫龍はこれでいい』と結論を出していたんだ。
そして俺もそう思う。
「好きだと言われたら、ちゃんと『ありがとう』ってお礼言ってるよ。
何か間違ってるの?」
「ハハッ 間違えてはいないよ。
紫に似ていると言っただけさ。
紫もね、高校生の時に良く告白されていたけど、君と大体同じ返答をしていたよ」
「同じって…どんな?」
「好きになってくれてありがとう。
それで?もう話しは終わり?
じゃあ私帰るね。バイバイ」
「………」
似てる…と言うか、語尾を女言葉じゃなくすれば、ほぼ俺の断り方と同じだ。
何か…間違ってるな俺……
母さんは男心が分からない。
俺は女心が分からない。
確かにその点は似ているのかも……
じゃあ正解は何なのかと聞きたかったが、父さんは正解は教えてくれず、別の話題に変えてしまった。
父さんは椅子に座る俺の横に来て、開いている本を覗き見る。
「何読んでいたの?『赤と黒』か。
うーん…紫龍は今13歳だよね?この本は少し早いかな……」
俺の年齢だと早いと言われた意味は分かっていた。
これは19世紀中期に書かれた、フランスリアリズム小説の原点と言うべき長編小説だ。
ブルボン朝復古王政時代を背景に、ジュリアンと言う一人の青年の恋と野望を描いた物語。