ラベンダーと星空の約束+α
 


父さんは満足げに書棚を見て、俺の頭をポンポンと叩いてから、北側の窓辺に移動する。



全開の窓から網戸を通して、涼しい風が入っていた。



ラベンダーの匂いを含む風と共に聴こえて来るのは、客を呼び込む母さんの声。




「残り……になりました……めにお買い求め……」




北側の窓から見えるのは、ファーム月岡の店舗と駐車場。


母さんは店の前で声を張り上げているようだ。



椅子から立ち上がり父さんの隣に行く。


茶色の瞳が俺を見下ろしニコリと笑い、それから外の母さんに視線を戻した。




「この窓から見る紫の姿…懐かしいな……

思うように店に出られなくなってからは…こうしていつも紫を見ていた……」




店の前で客を捕まえ、『富良野のもうこはん(シュークリーム)』を何とか売り切ろうとしている母さん。



夢中で接客しているから、手を振ってもこっちを見てくれない。



折角ここに父さんが居るのに…気付けよ……



痺れを切らして言った。



「母さん呼んで来るから待っていて!」



しかし、窓から離れようとする俺を、父さんは引き止めた。




「行かなくていいよ。
紫には度々会ってる。夢の中でね。

紫龍の夢に出るのは初めてだから、今は君と話しがしたいんだ」




「…うん…分かった」





父さんは母さんを見るのを止め、窓に背を向けて俺と向かい合う。


良く似た顔…自分の未来像のような姿……




「紫龍、大きくなったな…
君は俺より背が高くなりそうだ…」




そうなのかな…

いつか父さんより背が高くなり…

父さんの年齢も、追い越してしまうのかな……




今はまだまだ父さんは目上の存在だ。

だけど…追い越した時に、どんな気持ちが湧いて来るのか……




父さんを見上げながら、まだ分からないその感情を想像しようとする。

そうすると、何だか胸がチクリと痛み、微かに苦しさも感じた。



そんな俺の心を父さんは敏感に感じ取る。


温かい手が頭に乗り、目を合わせると優しく首を横に振られた。




「紫龍、君の成長は紫も大樹ももちろん俺も楽しみにしているんだ。

何も気に病む必要はない。

遠慮なく俺を追い越して欲しい。

もう数日過ぎてしまったけど、13歳の誕生日おめでとう」




「…… 父さん…俺、誕生日に聞いたよ。

父さんが死んで…俺が生まれた日の話し」




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