ラベンダーと星空の約束+α
「時間もない」と言うのは…
俺の目覚めの時間が、近づいていると言う事か……
急に眩しい光が射し、目を細めながら光りの方向を見ると、さっきの光りの扉がまた出現していた。
父さんがニヤリと笑って指先をパチンと鳴らす。
すると…
俺の体はぐんぐん縮まり、大地よりも小さな0歳の乳児になってしまった。
ぶかぶかのTシャツに包まれ、絨毯の上に寝転ぶしかない俺を、父さんは笑いながら抱き上げた。
「ハハッ 夢って便利だなぁ。何でも出来る。
小さな紫龍……可愛いな……」
元に戻せと言いたくても、喃語しか出て来ない。
「アブブブ」と文句を言いながら手足をばたつかせる俺を、優しい眼差しが包み、指先が頬を撫でる。
「紫龍…目が覚めたら、紫と大樹の寝室に行ってごらん?
君にとって、意味のある会話がなされる筈だよ。
君は優しいから紫の気持ちを考えて、遠慮して言えずにいる事があるんじゃない?
紫が知りたがっているよ。君の心を。
ファーム月岡を紫龍に押し付けていないかって、気にしていた。
目が覚めたら、正直な気持ちを話してあげて…約束だよ……」
父さんは赤ん坊の俺をキュッと抱きしめてから、手を離した。
自由にならない体が、ふわりと宙に浮いている。
父さんが光りの扉を開ける。
その中に足を踏み出そうとして立ち止まり…振り返った。
「目が覚めたら紫と大樹の寝室へ…正直な気持ちを話すんだよ……
それから…大樹に言っておいて…
二人三脚の練習出来なかったって…ハハッ……」
優しい笑顔は光りの中に消えて行き、扉が消えると同時に、空間がぼやけて大きく揺れ始めた。
『目覚めたら両親の寝室へ…正直に気持ちを話す……それから…二人三脚……』
父さんの最後の言葉だけは夢の中の意識に強く残り、眩しい朝日に目を開けても消えなかった。
他の会話や情景は残念ながら記憶の浅い場所には残らず、
取り出せない心の深い場所に眠る事となる。
そして…
俺がこんな夢を見ていた時間、不思議な事に母さんの夢の中にも写真の父さんは会いに来ていたそうだ……
***
次は久々の紫目線。
紫はそこそこいい歳ですが、夢の中では若い姿…と言うことにして思い描いて下さい。