ラベンダーと星空の約束+α
月岡流星、夏の一日
◇◇◇
[side 流星]
月岡の姓を名乗り始め、三年が経つ。
今年の夏もラベンダーは美しく咲き誇り、紫色の海原に、優しい香りが立ち込める。
その中で、忙しくも楽しい毎日が展開されている。
これから話すのはそんな夏の日常。
月岡家にすっかり溶け込んだ俺の、幸せで大切な夏の一日。
―――――……
A.M. 7:00
「流星ー!朝だよー!
起きてー!」
階段下から聞こえる、紫のモーニングコールで目が覚める。
欠伸(アクビ)を一つ。
カーテンを開けると、夏の強い陽射しに、目を細めた。
着替えをして顔を洗い、リビングに入ると、ふんわり朝食のいい匂いが漂っている。
月岡家の朝食はボリュームがある。
観光シーズンの昼食は、お握りやサンドイッチなど、手軽に短時間で食べられる物になるから、その分朝にしっかり食べる。
お義母さんが、家族5人分の茶碗にご飯をよそっていた。
紫は去年の誕生日に大樹から貰った、変なイラストのエプロンを着て、ガスレンジの前でだし巻き玉子を焼いていた。
綺麗にくるくると巻かれた卵焼き。
だしと醤油の香りが食欲をそそる。
四角いフライパンからまな板に移され、彼女が包丁を入れると、
木の年輪の様な綺麗な切れ目から、ふんわりといい匂いの湯気が立ち上った。
それを見て、俺の腹がグゥと鳴る。
「うまそ。つまみ食いしたい。
あ〜ん」
後ろから紫に抱き着き、口を開ける。
「えっ?出来立てだから熱いよ?大丈夫?」
彼女はフーフー息を吹き掛け、形ばかりに冷ましてから、一切れ俺の口に入れてくれた。
優しい味に、自然と笑みがこぼれる。
やっぱ、紫の作るだし巻き玉子は最高だ。
その時、俺達の頭にコンッコンッと、結構痛いお玉の打撃が降ってくる。
「痛っ!
お母さん、お玉は止めてよ。本気で痛い」
「あんた達が悪いんでしょ?
朝っぱらから、イチャつかない。
流星、キッチンに3人は狭いんだよ。邪魔。味噌汁がよそえない。
ほら席に座って…あ、待って、漬物と納豆と、これとそれとあれも、食卓に持って行きな」