ラベンダーと星空の約束+α
「そうそう、物分かりいいね。
ジャガバター位ならいいけど、千円のオムカレーをオシャカにするのは勿体ないだろ?
あんたの顔が良くて良かったよ。
紫は役立つ婿を貰ったよね、アハハッ!」
「紫は…」
「あの子なら、今倉庫に物取りに行ってるから大丈夫。
ほら、冷めないうちにアレやっといで」
月岡家で実権を握っているのは、お義母さんだ。
重要事項はお義父さんが決めるが、店の営業も生活も、お義母さんの考えで動いていると言っても過言ではないだろう。
紫の5倍くらいの迫力、
お義母さんに逆らえない。
紫が見ていないならと、まだホカホカと湯気の立つオムカレーを持ち、急いで客席に向かう。
狭い軽食コーナーは満席に近く、有り難い事に今日も繁盛していた。
食事中のお客さん達をザッと見渡し、その中の30代後半位の、三人組女性グループに近づいて行った。
サンドイッチや焼きトウモロコシを食べている彼女達のテーブルに、オムカレーのトレーをそっと置く。
「え?注文してないよ?」
と俺に言う女性客。
彼女に向け、ニッコリ笑いかけると
「あの…」と言葉を詰まらせ、赤面した。
「いけるな…」と踏み、手を伸ばし、人差し指で彼女の唇に軽く触れた。
「綺麗な色の口紅ですね…
夏の新色ですか?
あなたに良く似合っています」
「あっ…あの…あ、ありがとうございます…」
「お姉さん、行き場を失った可哀相なオムカレー、どう思いますか?
僕には…このオムカレーが、あなたの可愛い口に入りたがっている様に見えるんです…
優しいお姉さん、この子を買って頂けませんか?」
「…は…はい!是非!
喜んで!!」
「ありがとうございます。
では、千円頂きます」
その場で千円札一枚を貰い、買ってくれた女性客にもう一度営業スマイルで笑いかけ、
役目を終えたので戻ろうと踵(キビス)を返す…が、
調理場へと繋がる入口で、腕を組み、頬を膨らませる紫と、目が合ってしまった。
ヤバ…と思ったら案の定、調理場に引っ張り込まれ、怒られた。
「そんな事してまで売らなくていいって、いつも言ってるでしょ!!」