ラベンダーと星空の約束+α
今後、この話題で怒られる事は二度とないと思う。
お義父さんは叱るべき時にはしっかりと怒り、後には引き擦らない気持ちの良い気質だ。
4年前、突然戻った俺が、紫との結婚を申し出た時もそうだった。
ガツンと一発貰った後は
「仲良くやれ…」と言ってくれた。
説教の後は、プロ野球や競馬の話しなど、他愛ないいつもの晩酌時の会話が続いた。
そして、お義父さんと大樹の二人で、500mlの缶ビールを10本空にした所でお開きとなった。
今リビングのソファーには、ガーガーと鼾(イビキ)をかき、お義父さんが眠っている。
大樹は
「疲れた…眠い…」
とぼやき、帰って行った。
晩酌に付き合っていたから、今日は紫と一緒に風呂に入れなかった。
それを残念に思いながら入浴を済ませて戻ると、リビングに紫の姿は無かった。
先に眠ってしまったのかと思い、寝室に行くが、そこにも居ない。
とすると…
そう考え、外へ出る。
玄関から一歩外に出ると、迫力のある星空が迫り来る。
月の光りは弱く、雲が少なく、何者にも邪魔されない今宵の星空は、飲まれてしまいそうに美しい。
今晩、星を見ようと約束していた訳ではないが、
この圧巻の星空を目にすれば、星座の神話に浸りたいと、彼女なら思うだろう。
砂利道を抜け、草地を歩き、白樺並木に近付いて行く。
駐車場には数台の車が止められ、
宵闇の中、青く浮かび上がるラベンダー畑には、数人の観光客の人影が見えた。
予想通り、紫は白樺の木の下に居た。
白い木肌に背をもたれ、立ち姿勢でラベンダーの丘と、その向こうの星空を視界に収めていた。
夜風が優しい香りと、虫の音を運んでくる。
艶やかな黒髪が風に吹かれ、揺れる様が美しい。
何度も見ているその姿に、今日も心を奪われる。
近付いて行く俺に気付き、彼女は肩越しに振り向き微笑んだ。
曇りのない漆黒の瞳にラベンダーの丘が映り込み、青く輝く神秘的な瞳に見惚れた。