ラベンダーと星空の約束+α
まぁ、僕だって分かっていたけどさ。
例え僕が本気で惚れた所で、紫ちゃんは振り向いてくれないよ。
僕は、柏寮の仲間以上の存在になれない。
僕じゃダメなんだ…
彼女は、大ちゃんじゃないとダメなんだ…
分かっているから、本気にならないよう凄く頑張っていたよ。
僕って本当苦労人。
あの時の自分に、今でも同情するね。
長々と話したけど、つまり僕が言いたかったのは、
紫ちゃんと二人暮らしは、かなりキツかったって事。
もう二度と嫌だ……
―――――…
そんな訳で、あの時の僕の苦労を、触りだけでも大ちゃんが理解していると知り、少しだけ心が軽くなった気がした。
スモークサーモンのサンドイッチにかぶりつき、アイスティーを飲みながら、その後は落ち着いてお互いの4年間を話した。
大ちゃんは
「紫の本当の強さに、やっと気づいた…」
と、喜びと後悔の入り混じった複雑な声でそう言った。
明後日、富良野に行って、紫ちゃんに会うらしい。
喜ぶだろうな紫ちゃん…
本当に良かった。
忙しく仕事していても、二人の事は頭から離れなかったし、ずっとモヤモヤしていたからさ…
大ちゃんが帰って来て、僕も心から嬉しいよ。
大ちゃんが紫ちゃんと再会するまで、彼女にメールも電話もしないでおこう。
今の僕は、かなりウズウズソワソワしちゃってるから、余計な事を喋っちゃいそうだしね。
話しは尽きなかったけど、三時間後、閉店時間でお店から追い出された。
店を出ると、心地好いとは言えない夏の夜風が、僕の栗色の長い髪をさらっていく。
日中の強い日差しに熱っせられたアスファルトが、蓄えた熱をまだ放散し続けて、足元が何だか生温い。
まだまだ蒸し暑く爽やかさはやって来ない東京の街。
でも、僕の心の中だけは久しぶりにサッパリと、気持ちの良い風が吹いていた。
駅までの大通りを並んで歩きながら、大ちゃんが言った。
「明日、瑞希の店に行くから、髪を切ってくれないか?」
「いいよ。15時くらいなら、僕の指名入ってないから、その位に来て?」
「もう指名が入る程になっているのか…凄いな」
「まあね〜僕って結構凄いよ。
この前、ヘアメイクの雑誌にも載ったんだよ。
明日、その雑誌見せてあげる」